著者:Ryan P. Cantwell Chater, Julian Peiser-Oliver, Tanmay K. Pati, Ada S. Quinn, Irina Lotsaris, Zachary J. Frangos, Kristen E. Anderson, Anna E. Tischer, Billy J. Williams-Noonan, Karin R. Aubrey, Megan L. O’Mara, Michael Michaelides, Sarasa A. Mohammadi, Christopher L. Cioffi, Robert J. Vandenberg, Azadeh Shahsavar
Proceedings of the National Academy of Sciences · 公開日/巻号発行日:2026-10-13
著者:Anna Mariano, Andrei Rozov, Grant D. Phillips, Sam Singleton, Daniel Baptista-Hon, Fliza Valiullina-Rakhmatullina, Rolf Sprengel, Rosamund Langston, Stephen J. Martin, Tim G. Hales, Jeremy J. Lambert
著者:Iuliia Karavaeva, Astrid Linde Basse, Samuel A. J. Trammell, Mohammed Faiz Hussain, Lasse Kruse Markussen, Jesper F. Havelund, Marie Sophie Isidor, Adam Chatoff, Andrea Andress Huacachino, Hannah J. Richter, Meghna Birla, Sabina Chubanava, Yann Deleye, Rini Arianti, David Tandio, Sarah E. Utzon, Zafir Kaiser, Yachen Shen, Ditte Neess, Hannes Embring, Dilip Menon, Olivia J. Conway, Frederike Sass, Fabian Finger, Lidia Argemi-Muntadas, Tao Ma, Elahu G. Sustarsic, Cecilie Kynding Kristensen, Rebecca L. McIntyre, Genesee J. Martinez, Anna Sofie Husted, Matthew J. Emmett, Zachary A. Kipp, Mikkel Frost, Mark P. Jedrychowski, Michel Van Weeghel, Homa Majd, Ekaterina Zhuravleva, Robert W. McGarrah, Kaja Plucińska, Mohit K. Midha, Andreas Prokesch, Paul Cohen, James G. Granneman, Patrick Seale, Riekelt H. Houtkooper, Jacob B. Hansen, Steven P. Gygi, Thue W. Schwartz, Matthew P. Gillum, Terry D. Hinds, Raymond E. Soccio, Phillip J. White, Edmund R. S. Kunji, Thomas Moritz, Jonas T. Treebak, Endre Kristóf, Susanne Mandrup, Brice Emanuelli, Nathaniel W. Snyder, Daniel J. Fazakerley, Lawrence Kazak, Nils J. Færgeman, Mitchell A. Lazar, Zachary Gerhart-Hines
今号では12本の論文を紹介する。クライオ電子顕微鏡の試料作製とデータ処理、GlyT2による輸送と鎮痛、シナプスシグナル、脂質代謝、創薬標的としてのRNA結合タンパク質などを取り上げる。
クライオ電子顕微鏡の試料作製とデータ処理(4本)
01 · クライオ電子顕微鏡におけるデータ取得後の超解像処理
IUCrJ · 公開日/巻号発行日:2026-09-01
著者:R. N. Burton Smith, K. Murata
クライオ電子顕微鏡による再構成の分解能がピクセルサンプリングのナイキスト限界に近づくと、さらに分解能を高めるには通常、データ取得条件を変更する必要がある。本研究は、データ取得後に超解像処理を施すPASRを提案する。動き補正の前に、計数モードで取得した生のムービーデータのピクセル数を倍増させ、既存データからの再構成でも物理的なサンプリング限界を超えられる可能性を示した。著者らはサイズや対称性の異なる複数の試料データでこの考え方を検証し、取得時に超解像モードを使用したデータにも適用できると報告している。この方法により、目標分解能を得るために必要な倍率を抑え、データ取得効率を高められる可能性がある。ただし、元のデータが対応するナイキスト限界に達していることが重要な前提となる。ピクセル数を倍増させれば、どのデータセットでも実際の構造情報が新たに生まれるわけではない。
注目ポイント · PASRは、サンプリング限界に達したムービーデータの構造情報をさらに活用するための後処理手法を提供する。
DOI:10.1107/S2052252526005348
02 · クライオ電子顕微鏡での粒子の優先配向を低減する超音波励振付きプランジ凍結ピンセット
プレプリント · 公開日/巻号発行日:2026-10-04
著者:Jakub Wenz, Mischa Flór, Constantin R. Krüger, Marcel Drabbels, Ulrich J. Lorenz
粒子が気液界面に吸着すると優先配向が生じ、特定の方向から見た像ばかりが取得される一方、ほかの方向の像は得られなくなる。このプレプリントでは、試料を保持する凍結用ピンセットの先端に超音波トランスデューサーを組み込み、ガラス化の過程で試料を励振して角度分布の改善を図った。著者らが以前に提案した原理は、粒子を気液界面から脱離させ、配向を再分布させるというものだ。今回は、プランジ凍結装置に組み込める実装を中心に示している。優先配向が生じやすいヘマグルチニンでは、励振振幅を大きくするほど側面像と斜めからの像の割合が増加し、最終的に三量体全体を2.5 Åで再構成できた。この結果は、試料作製時に能動的な摂動を加えることで、より幅広い配向の像を得られることを示す。ただし、今回の効果は特定の検証系で示されたものであり、ほかの試料への適用可能性は引き続き評価が必要だ。
注目ポイント · 凍結用ピンセットに超音波励振を組み込むことで、試料作製中に粒子を観察できる方向の偏りを改善できる。
DOI:10.64898/2026.09.29.755300
03 · DeepEMhancer:深層学習によるクライオ電子顕微鏡の三次元マップの後処理
Communications Biology · 公開日/巻号発行日:2021-07-15
著者:Ruben Sanchez-Garcia, Josue Gomez-Blanco, Ana Cuervo, Jose Maria Carazo, Carlos Oscar S. Sorzano, Javier Vargas
クライオ電子顕微鏡のマップでは、高周波成分のコントラスト低下が原子モデルの解釈を妨げる。一方、マップ全体に一律のB因子補正を適用するだけでは、領域ごとの品質の違いに対応しにくい。DeepEMhancerは深層学習でマップの後処理を自動化し、マスキングやシャープニングに相当する処理を一段階にまとめる。学習には、実験マップと、それに対応する原子モデルを使ってシャープニングしたマップのペアを用い、局所的な特徴とノイズをどう改善するかをネットワークに学習させた。著者らは20個の実験マップで評価し、ノイズの低減と識別できる細部の増加を確認したほか、RNAポリメラーゼ構造への応用も示している。この手法はマップを解釈しやすくするためのものであり、処理後の見た目が鮮明になったことを、新たな独立した実験的証拠とみなすことはできない。構造の判断には、元のデータと、モデルとマップの整合性を確認する必要がある。
注目ポイント · DeepEMhancerはマスキングとシャープニングに相当する処理を統合し、クライオ電子顕微鏡マップの局所的な解釈しやすさを改善する。
DOI:10.1038/s42003-021-02399-1
04 · CryoMV:構造の事前情報に基づくモデリングと実粒子による検証でクライオ電子顕微鏡の連続的な構造遷移を解析
プレプリント · 公開日/巻号発行日:2026-09-27
著者:Fuwei Li, Hao Dong, Shuai Tang, Xinsheng Wang, Chuanyang Zhang, Chenxuan Ji, Renmin Han, Fa Zhang, Xiaohua Wan
二次元粒子像から連続的な構造変化を復元する際、モデルは滑らかな軌跡を生成できるが、すべての中間状態が実データに裏付けられているとは限らない。このプレプリントで提案されたCryoMVは、構造の事前情報に基づくモデリングと、元の粒子像による検証を組み合わせる。まず参照密度から構造の基準点と運動の事前情報を設定し、次に候補となる経路を二次元粒子データに対応付け、粒子の姿勢とコントラスト伝達関数を考慮して候補構造を評価する。支持が得られた状態は、元の粒子像を逆投影して再構成し、ハーフマップとFSCで評価する。著者らは2つのEMPIARデータセットを用い、頑健性、検証可能性、再構成分解能について結果を報告している。狙いは、生成した構造に追跡可能な粒子像の裏付けを与え、連続的な不均一性の解析でモデルに起因するアーティファクトを減らすことにある。滑らかな変化そのものを検証の代わりにするわけではない。
注目ポイント · CryoMVは候補となる構造変化の経路を実粒子からの再構成と結び付け、中間状態に実験的な裏付けがあるかを検証する。
DOI:10.64898/2026.09.21.753206
GlyT2による輸送と鎮痛(4本)
05 · 可逆的なGlyT2アロステリック阻害剤が標的作用に起因する副作用なしに神経障害性疼痛を軽減
プレプリント · 公開日/巻号発行日:2025-11-20
著者:Ryan P. Cantwell Chater, Julian Peiser-Oliver, Tanmay K. Pati, Ada S. Quinn, Irina Lotsaris, Zachary J. Frangos, Kristen E. Anderson, Anna E. Tischer, Billy J. Williams-Noonan, Karin R. Aubrey, Megan L. O’Mara, Michael Michaelides, Sarasa A. Mohammadi, Christopher L. Cioffi, Robert J. Vandenberg, Azadeh Shahsavar
GlyT2は抑制性のグリシン神経伝達を調節し、非オピオイド鎮痛薬の重要な研究標的となっている。ただし、一部の阻害剤は鎮痛用量で阻害作用が容易に解除されず、副作用をもたらす。このプレプリントでは、可逆的なアロステリック阻害剤RPI-GLYT2-82を開発し、ヒトGlyT2のクライオ電子顕微鏡構造から結合領域を特定した。さらに、基質非結合、グリシン結合、各種阻害剤結合時の構造を比較している。著者らによると、この化合物はほぼ不可逆的な阻害剤ORG25543よりも速く解離し、マウスの神経障害性疼痛モデルで鎮痛作用を示した。評価対象とした標的関連の副作用や依存リスクは観察されなかった。この研究は、阻害の可逆性が有効性と安全性のバランスを左右する可能性を示す。ただし、結果はプレプリントで報告された動物実験の証拠であり、そのままヒトでの安全性に当てはめることはできない。
注目ポイント · 可逆的なアロステリック阻害は、GlyT2を標的とする鎮痛研究で、作用の強さと機能の回復しやすさを両立させるための手掛かりとなる。
DOI:10.1101/2025.04.21.649698
06 · xeGlyT2による基質と阻害剤の認識に関する構造的考察
Proceedings of the National Academy of Sciences · 公開日/巻号発行日:2026-10-13
著者:Ryan P. Cantwell Chater, Azadeh Shahsavar
Zoteroに要旨が保存されていなかった。DOIのリンク先ページと出版社のメタデータも確認したが、利用できる要旨は得られなかったため、今号ではメタデータのみを掲載する。
DOI:10.1073/pnas.2612775123
07 · グリシントランスポーター2による輸送と鎮痛化合物の認識機構
Proceedings of the National Academy of Sciences · 公開日/巻号発行日:2025-12-02
著者:Yuhang Wang, Jiawei Su, Jun Zhao, Renjie Li, Qinru Bai, Hongyi Song, Yufei Meng, Qiao Ma, Yan Zhao
GlyT2はグリシンを再取り込みすることで抑制性神経伝達を維持し、基質輸送と薬物による阻害には複数の構造状態が関わる。本研究では、リガンド非結合、グリシン結合、複数の鎮痛薬候補となる阻害剤の結合状態について高分解能構造を取得し、外向き開状態、閉塞状態、内向き開状態を捉えた。基質複合体からはグリシン、ナトリウムイオン、塩化物イオンの結合様式が明らかになり、第3のナトリウム結合部位も提案され、イオン共役輸送を説明する手掛かりとなった。著者らは脂質型阻害剤oleoyl-D-lysineのアロステリックポケットも見いだし、外向き構造を安定化することで構造遷移を妨げると提案している。ほかの低分子との複合体では、異なる競合阻害やアロステリック阻害の様式が示された。この研究は、グリシンの再取り込みと候補薬物の作用を比較するための構造的な枠組みを提供する。ただし、構造解析の結果だけで、これらの化合物の臨床的な鎮痛効果を確立することはできない。
注目ポイント · 複数の構造状態を捉えたGlyT2の構造が、イオン共役輸送と各種阻害剤の作用様式を結び付ける。
DOI:10.1073/pnas.2506722122
08 · ヒトのグリシントランスポーター2の輸送・阻害機構
Nature Communications · 公開日/巻号発行日:2026-04-16
著者:Wenming Ji, Yuanzhi Yu, Zirui Liu, Junwen Su, Qianyu Wang, Mulin Lai, Jing-Xiang Wu
ヒトGlyT2はナトリウムイオンと塩化物イオンの濃度勾配を利用して、シナプス前ニューロンにグリシンを再取り込みし、抑制性シグナルの維持に重要な役割を果たす。本研究では、リガンド非結合、基質結合、阻害剤結合の複数の構造状態を解析した。リガンド非結合状態は内向きで、グリシンは閉塞構造の中央ポケットに結合していた。ORG25543とopiranserinは細胞外側の通路に近いアロステリック部位に位置する。著者らは、これらがくさびのように働き、関連する膜貫通ヘリックスの動きと細胞外側ゲートの閉鎖を妨げると提案している。各状態の比較からは、イオンやグリシンの結合・放出に伴う局所的な変化と全体的な変化も明らかになった。これらの観察は、非オピオイド鎮痛薬の標的の機構研究にヒト由来の構造的根拠を提供するとともに、ほかのGlyT2研究との間で、種、構造状態、リガンドの違いを比較するうえでも役立つ。
注目ポイント · ヒトGlyT2の各状態の構造から、基質輸送とアロステリック阻害が同じ構造変化サイクルにどう関わるかが分かる。
DOI:10.1038/s41467-026-71935-6
その他の論文(4本)
09 · 結核菌の細胞壁ガラクタン輸送における認識と機構
Nature Communications · 公開日/巻号発行日:2026-10-09
著者:Chuancun Wei, Katherine A. Abrahams, Violetta Krisilia, Jian Li, Sudagar S. Gurcha, Eveline Derr, Milena Hänisch, Rainer Kalscheuer, Gurdyal S. Besra, Zihe Rao, Lu Zhang
脂質に結合したガラクタンは結核菌の細胞壁の重要な構成成分であり、その膜を越える輸送は多糖ABC輸送系に依存する。本研究では、関連する輸送タンパク質の複数の状態をクライオ電子顕微鏡で観察し、細胞機能解析と組み合わせて、基質認識とエネルギー駆動型輸送がどう連動するかを調べた。密度の一部は天然基質と整合し、基質結合と輸送タンパク質の構造変化が協調することを支持している。ただし、その密度を基質とする同定は、あくまで示唆的な証拠にとどまる。各状態の構造は、細胞壁前駆体の輸送を理解するための枠組みを提供し、細胞壁関連経路から抗結核薬の標的を探す研究の方向性を支持する。この研究の主な貢献は基礎的な機構の理解にある。要旨では新薬のヒトでの有効性は報告されておらず、構造の観察から臨床での利用可能性を直接推定することもできない。
注目ポイント · 複数の状態の構造と機能解析の証拠が、結核菌の細胞壁成分の膜輸送を理解するための根拠となる。
DOI:10.1038/s41467-026-78496-8
10 · 抗うつ薬チアネプチンとオピオイドペプチドによる海馬シナプスのAMPA受容体機能の増強
Proceedings of the National Academy of Sciences · 公開日/巻号発行日:2026-10-13
著者:Anna Mariano, Andrei Rozov, Grant D. Phillips, Sam Singleton, Daniel Baptista-Hon, Fliza Valiullina-Rakhmatullina, Rolf Sprengel, Rosamund Langston, Stephen J. Martin, Tim G. Hales, Jeremy J. Lambert
非定型抗うつ薬チアネプチンがグルタミン酸シグナルを増強する仕組みは、従来のモノアミン系薬物とは異なる作用特性との関連で注目されてきた。本研究では、マウス海馬CA1錐体ニューロンの電位固定記録から、チアネプチンがシナプスAMPA受容体を介する誘発興奮性電流を増強し、その効果が細胞内ポリアミンとGluA1サブユニットに依存することを示した。この結果は、薬物がGluA1を含むチャネルに対する内因性ポリアミンの遮断作用を解除する可能性を示唆する。さらに、受容体欠損、拮抗、シグナル阻害の実験から、この増強作用が間接的にμおよびδオピオイド受容体に依存することが支持された。対応するペプチド性・非ペプチド性作動薬でも同様の効果を再現できた。この研究はオピオイド受容体の活動とシナプス興奮性の調節を結び付けるが、細胞や動物で得られた機構の証拠が、ヒトでの抗うつ効果を直接証明するわけではない。
注目ポイント · チアネプチンは、オピオイド受容体シグナルを介して、GluA1を含むシナプスAMPA受容体の機能を間接的に増強できる。
DOI:10.1073/pnas.2521987123
11 · ミトコンドリア輸送体SLC25A34が体内時計・食事・温度による脂肪細胞の脂質サイクル制御をつなぐ
Science · 公開日/巻号発行日:2026-10-01
著者:Iuliia Karavaeva, Astrid Linde Basse, Samuel A. J. Trammell, Mohammed Faiz Hussain, Lasse Kruse Markussen, Jesper F. Havelund, Marie Sophie Isidor, Adam Chatoff, Andrea Andress Huacachino, Hannah J. Richter, Meghna Birla, Sabina Chubanava, Yann Deleye, Rini Arianti, David Tandio, Sarah E. Utzon, Zafir Kaiser, Yachen Shen, Ditte Neess, Hannes Embring, Dilip Menon, Olivia J. Conway, Frederike Sass, Fabian Finger, Lidia Argemi-Muntadas, Tao Ma, Elahu G. Sustarsic, Cecilie Kynding Kristensen, Rebecca L. McIntyre, Genesee J. Martinez, Anna Sofie Husted, Matthew J. Emmett, Zachary A. Kipp, Mikkel Frost, Mark P. Jedrychowski, Michel Van Weeghel, Homa Majd, Ekaterina Zhuravleva, Robert W. McGarrah, Kaja Plucińska, Mohit K. Midha, Andreas Prokesch, Paul Cohen, James G. Granneman, Patrick Seale, Riekelt H. Houtkooper, Jacob B. Hansen, Steven P. Gygi, Thue W. Schwartz, Matthew P. Gillum, Terry D. Hinds, Raymond E. Soccio, Phillip J. White, Edmund R. S. Kunji, Thomas Moritz, Jonas T. Treebak, Endre Kristóf, Susanne Mandrup, Brice Emanuelli, Nathaniel W. Snyder, Daniel J. Fazakerley, Lawrence Kazak, Nils J. Færgeman, Mitchell A. Lazar, Zachary Gerhart-Hines
脂肪細胞は概日リズムに応答するだけでなく、食事や温度の変化に合わせてエネルギー代謝を素早く調節する必要がある。本研究では、これらのシグナルが合流する点としてミトコンドリア輸送体SLC25A34を特定した。睡眠期には転写抑制因子REV-ERBがその発現を抑える一方、活動期、高脂肪食、寒冷刺激はこの抑制を解除し、脂肪分解シグナルとPPARを介して発現を促進する。生化学・代謝解析の結果は、SLC25A34がオキサロ酢酸をミトコンドリア内に取り込み、TCA回路と細胞質アセチルCoAの生成をともに支えるという機能モデルを支持する。後者はさらに脂質合成とミトコンドリアの酸化代謝に関わる遺伝子発現を支え、脂質の分解と再合成を協調させる。この機構は、熱産生脂肪が日々のリズムと急性応答をどう両立するかを説明する。ただし、輸送基質のモデルや治療につながる可能性については、それぞれの証拠の強さに応じて解釈する必要がある。
注目ポイント · SLC25A34は体内時計、食事、温度のシグナルを脂肪細胞の脂質サイクルに結び付ける。
DOI:10.1126/science.adz4797
12 · 創薬標的となりうるRNA結合タンパク質の細胞内外での全体像
Nature Reviews Drug Discovery · 公開日/巻号発行日:2026-09-29
著者:Gaia Di Timoteo, Benson M. George, Omar Abdel-Wahab, Ryan A. Flynn, Konstantinos Tzelepis
RNA結合タンパク質はRNAのプロセシング、修飾、翻訳、分解に関わり、非コードRNAの機能にも影響するため、細胞の性質やさまざまな疾患と密接に結び付いている。この総説では、細胞内のRNA結合タンパク質の既知の役割を整理し、特にがんとの関連を論じている。また、RNAインタラクトームの体系的な研究が、創薬標的候補の範囲をどう広げてきたかを振り返る。さらに新たな方向として、一部のRNA結合タンパク質が細胞表面に存在し、細胞種や疾患状態に応じた分布を示すことに注目している。こうした表面タンパク質はバイオマーカーや免疫療法の標的となる可能性があり、著者らはその局在を利用した新たな免疫療法の開発戦略を論評する。ただし、この分野はまだ発展途上にある。細胞表面に存在するというだけで、信頼性と特異性を備えた臨床標的としての価値が確立したとはいえない。
注目ポイント · RNA結合タンパク質の細胞表面局在は、バイオマーカーや免疫療法の標的を探す研究の範囲を広げる。
DOI:10.1038/s41573-026-01531-2