著者:Luca Posa, Giovanna R. Romano, Xiang Ji, Saif Khan, Antonina L. Nazarova, Sheida Sharghi Moshtaghin, Bruno Paz, Gye Won Han, Anisul Arefin, Alberto J. Gonzalez-Hernandez, Ipsit Srivastava, Saheem A. Zaidi, Kenny Calderon-Godinez, Zixin Zhang, Aaliyah S. Tyson, Mohsen Ranjbar, Kristen E. Pleil, Kanupriya Pande, Vsevolod Katritch, Cornelius Gati, Dirk Trauner, Joshua Levitz
著者:G. Glenn Gregorio, Matthieu Masureel, Daniel Hilger, Daniel S. Terry, Manuel Juette, Hong Zhao, Zhou Zhou, Jose Manuel Perez-Aguilar, Maria Hauge, Signe Mathiasen, Jonathan A. Javitch, Harel Weinstein, Brian K. Kobilka, Scott C. Blanchard
著者:Jiawei Zhao, Matthias Elgeti, Evan S. O’Brien, Cecília P. Sár, Amal EI Daibani, Jie Heng, Xiaoou Sun, Elizabeth White, Tao Che, Wayne L. Hubbell, Brian K. Kobilka, Chunlai Chen
著者:Marina Casiraghi, Haoqing Wang, Patrick C. Brennan, Chris Habrian, Harald Hübner, Maximilian F. Schmidt, Luis Maul, Biswaranjan Pani, Sherif M. F. M. Bahriz, Bing Xu, Nico Staffen, Tufa E. Assafa, Bohan Chen, Elizabeth White, Roger K. Sunahara, Asuka Inoue, Yang K. Xiang, Robert J. Lefkowitz, Ehud Y. Isacoff, Nathaniel Nucci, Peter Gmeiner, Michael T. Lerch, Brian K. Kobilka
著者:Annika Ullrich, Johannes Schneider, João M. Braz, Eduard Neu, Nico Staffen, Markus Stanek, Jana Bláhová, Tamsanqa Hove, Tamara Albert, Anni Allikalt, Stefan Löber, Karnika Bhardwaj, Sian Rodriguez-Rosado, Elissa Fink, Tim Rasmussen, Harald Hübner, Asuka Inoue, Brian K. Shoichet, Allan I. Basbaum, Bettina Böttcher, Dorothee Weikert, Peter Gmeiner
著者:Elissa A. Fink, Jun Xu, Harald Hübner, Joao M. Braz, Philipp Seemann, Charlotte Avet, Veronica Craik, Dorothee Weikert, Maximilian F. Schmidt, Chase M. Webb, Nataliya A. Tolmachova, Yurii S. Moroz, Xi-Ping Huang, Chakrapani Kalyanaraman, Stefan Gahbauer, Geng Chen, Zheng Liu, Matthew P. Jacobson, John J. Irwin, Michel Bouvier, Yang Du, Brian K. Shoichet, Allan I. Basbaum, Peter Gmeiner
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America · 公開年/巻号の発行年:2020
著者:Kelvin F Cho, Tess C Branon, Sanjana Rajeev, Tanya Svinkina, Namrata D Udeshi, Themis Thoudam, Chulhwan Kwak, Hyun-Woo Rhee, In-Kyu Lee, Steven A Carr, Alice Y Ting
著者:Wei Qin, Joleen S Cheah, Charles Xu, James Messing, Brian D Freibaum, Steven Boeynaems, J Paul Taylor, Namrata D Udeshi, Steven A Carr, Alice Y Ting
タンパク質の居場所がわかっても、どこから来て、どこへ向かったかがわかるとは限らない。TransitID は出発点と到達点の区画に配置した2種類の近接標識系を使い、両方の環境を経た内在性タンパク質を同定することで、質量分析の対象をタンパク質の輸送履歴へと広げる。著者らは細胞質とミトコンドリア、核の間の移動や、核小体とストレス顆粒のつながりを調べ、ストレス顆粒が酸化ストレス時の転写因子 JUN の保護に関わることを見いだした。また、マクロファージとがん細胞の間で受け渡されるタンパク質の同定にも応用した。この手法の大きな貢献は、出発点と到達点によってタンパク質集団を定義し、静的な局在マップでは得にくい情報を補える点にある。具体的な経路や直接的な作用については、さらに検証が必要だ。
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America · 公開年/巻号の発行年:2010
著者:Chayasith Uttamapinant, Katharine A White, Hemanta Baruah, Samuel Thompson, Marta Fernández-Suárez, Sujiet Puthenveetil, Alice Y Ting
PRIME は、大きな蛍光タンパク質タグが標的に及ぼす影響を抑えるため、短いペプチドタグと改変リガーゼを使って、生細胞内で特定のタンパク質に低分子蛍光色素を結合させる。研究では天然のリポ酸リガーゼの基質認識を改変し、クマリン系プローブを標的ペプチドに共有結合させられるようにした。検証した系では、哺乳類の内在性タンパク質に対する高い選択性も維持された。さらに、リガーゼを異なる区画に局在させることで、細胞表面のニューレキシンや核内のアクチンなど、空間的に異なるタンパク質集団を選択的に標識した。本研究は、標識の特異性を標的配列だけでなく酵素の位置によっても限定できることを示し、生細胞のタンパク質イメージングに小さなタグを使う選択肢を提供する。
ハイライト · PRIME は短いペプチドの認識と酵素の細胞内局在を組み合わせ、特定のタンパク質集団を蛍光標識する。
著者:Sarah V. Barrass, Tim K. Esser, Nathan J. Mowry, Lukas Eriksson, Jakub Wenz, Laurence T. Seeley, Wyatt A. Curtis, Lindsay A. Baker, Marcel Drabbels, Stephan Rauschenbach, Ulrich J. Lorenz
Proceedings of the National Academy of Sciences · 公開日/巻号発行日:2024-11-26
著者:Jun Xu, Geng Chen, Haoqing Wang, Sheng Cao, Jie Heng, Xavier Deupi, Yang Du, Brian K. Kobilka
クラス A GPCR は小さく、G タンパク質などの大きな結合相手がない状態では、膜貫通コアも界面活性剤ミセルに囲まれるため、粒子の位置と向きを合わせるのが特に難しい。本研究では、カルシニューリンと受容体を複数の箇所でつなぐ融合戦略を提案し、膜外に剛性の高い基準構造を設けた。この方法で β2 アドレナリン受容体のリガンド非結合状態、アンタゴニスト結合状態、アゴニスト結合状態を解析し、安定して追跡できる構造的特徴を加えることが、小型膜タンパク質の構造情報の復元に役立つと示した。この方法の主な価値は、天然のシグナル伝達複合体に依存しない構造解析の条件を広げる点にあり、融合後の動的挙動がすべて天然受容体と同じだと証明したわけではない。他のクラス A GPCR への適用性は、対象ごとに検証する必要がある。
著者:Caleigh M. Azumaya, Przemysław Dutka, Matthew C. Johnson, Cheng-Guo Wu, Bryce D. Delgado, Christopher W. Koo, Jeffrey Y. K. Tom, Tik Hang Soong, Sandeep K. Ravala, Alister Burt, Shu Ti, Anna C. Howes, Orlando E. Martinez, Aimin Song, Alexis Rohou, Claudio Ciferri, Stanislau Yatskevich
著者:Li Xu, Xin Wang, Xuebo Quan, Stephen T. Ferguson, Dong Liu, Jiawei Chen, Sai Wang, Simin Liang, Gaoxingyu Huang, Kai Huang, Feng Liu, Xiaojing Pan
昆虫のイオンチャネル型受容体は環境中の化学シグナルを認識するが、リガンド選択性がどのようにチャネルの開口につながるのかは、構造面から十分に説明されていなかった。本研究では、蚊由来の IR 複合体の複数の状態を解析し、機能測定とシミュレーションを組み合わせて、リガンド非結合構造、リガンド結合構造、開状態を比較した。その結果、リガンド結合ポケットは動的な可塑性を持ち、化学物質の認識が細胞外結合ドメインの閉鎖と結びついていることがわかった。この変化は連結領域を通じて膜貫通部に伝わり、ポアを拡張する。複数の証拠が、リガンド結合とチャネルのゲーティングを結ぶ機械的共役の枠組みを支持している。この研究は昆虫の感覚受容体に関する基礎的な構造理解をもたらす。一方、抄録で示された媒介生物の防除への応用は今後の展望であり、実際の防除効果が検証されたわけではない。
著者:Anqi Chen, Kejia Wu, Hojae Choi, Preetham Venkatesh, Samuel J. Pellock, Nikita Hanikel, Hojeong Shin, Declan Evans, Kieran Didi, Lars L. Schaaf, Cristina Díaz-Perlas, Brian Coventry, Donghyo Kim, Seth M. Woodbury, Pengfei Ji, Shingo Honda, Asim K. Bera, Hannah Nguyen, Alex Kang, Yanqing Wang, Xinting Li, Stacey Gerben, Lemuel Chang, Xiao Yan, Benjamí Oller-Salvia, Anthony A. Hyman, Donald Hilvert, David Baker
ペプチド結合を切断する酵素の de novo 設計は、計算設計が高いエネルギー障壁を持つ反応に対応できるかを試す重要な課題である。本研究では RFdiffusion を用いて、亜鉛を含む触媒中心と、それに隣接する基質結合ポケットを備えたメタロプロテアーゼを構築した。試験した135種類の設計のうち、約36%が対応するペプチド基質を狙った位置で切断した。著者らによると、最も優れた設計はペプチド結合の加水分解を大幅に加速し、さらなる最適化によって活性も向上した。また、疾患関連タンパク質の選択的切断や、プロテアーゼによる細胞シグナル制御の概念実証も示した。この結果は、計算設計によって触媒能と基質認識を組み合わせられることを示している。ただし、治療やバイオテクノロジーへの応用はまだ将来の可能性であり、これらの実験結果を、そのまま確立済みの臨床ツールとみなすことはできない。
注目ポイント · de novo 設計したメタロプロテアーゼで、比較的高い触媒活性と、設計によって調整できる基質認識を両立した。
著者:Hojae Choi, Magnus S. Bauer, Brian Coventry, Preetham Venkatesh, Anqi Chen, Donghyo Kim, Asim K. Bera, Alex Kang, Hannah Nguyen, Shayan Sadre, Justin Decarreau, Emily Joyce, Bhanumathi Shankaran, Tuscan Rock Thompson, Gabriel Greenstein, Kieran Didi, Lars L. Schaaf, Jacob Merle Gershon, Alexander F. Shida, Gyu Rie Lee, Donald Hilvert, Samuel J. Pellock, David Baker
安定なペプチド結合を加水分解するには、触媒中心の配置と基質の位置決めを高い精度で整える必要がある。本研究では、システインを触媒求核基とするプロテアーゼを de novo 設計し、試験した69種類のうち13種類で成功した。報告された最大の反応加速は、バックグラウンドの加水分解の数千万倍に達した。これらのタンパク質の全体的なフォールドは天然プロテアーゼと大きく異なる一方、6つの結晶構造は設計モデルとよく一致し、新しい骨格でも構造を正確に設計できることを裏付けた。実験と計算解析からは、高活性の天然酵素との差には、活性部位の事前組織化や基質の位置決めがなお不十分なことが関わると示唆された。著者らは哺乳類細胞でも標的の切断を示し、設計したタンパク質が試験管内だけでなく細胞環境でも働くことを確認した。ただし、活性と選択性は個々の実験系で評価する必要がある。
著者:Chen Zhou, Huican Li, Jiaxing Wang, Cheng Qian, Hui Xiong, Zhilin Chu, Qiming Shao, Xuan Li, Shijin Sun, Ke Sun, Aiqin Zhu, Jiawei Wang, Xueqin Jin, Fan Yang, Tamer M. Gamal El-Din, Bo Li, Jing Huang, Kun Wu, Peilong Lu
de novo 設計した膜タンパク質を電位に応答させるには、イオンが流れる経路を作るだけでなく、環境の変化を構造の動きにつなげる必要がある。本研究では電位依存性陰イオンチャネル dVGAC を設計し、パッチクランプ法で電位依存的な陰イオン電流を確認した。クライオ電子顕微鏡構造は設計モデルに近く、シミュレーションと合わせて、孔内の電荷を帯びた狭窄部が電位変化の感知に関わり、同時にイオン選択性にも影響することを支持した。著者らは、チャネルの性質をさらに調整できることも報告し、ニューロンの実験系で発火を抑制する作用を示した。この研究は、計算設計の対象を静的な膜貫通構造から刺激に応答する動的な機能へと広げ、膜タンパク質の構造変化と電気活動の関係を調べる人工的な実験系を提供する。ただし、適用範囲は細胞や実験条件ごとに評価する必要がある。
注目ポイント · de novo 設計した陰イオンチャネルが電位に応答し、実験系でニューロンの発火を抑制した。
著者:Xi Chen, Xiaofeng Zhou, Jiawei Zhou, Tengyu Xie, Yaning Li, Yuxuan Yan, Jing Huang, Zibo Chen, Dan Ma, Peilong Lu
このプレプリントは、静的な孔を形成するだけでなく、小分子を選択的に輸送できる膜タンパク質を de novo 構築する試みである。著者らは、膜内で互いに逆向きのトポロジーを取れるタンパク質ユニットを設計し、逆平行二量体を形成させた。構造変化によって、基質結合部位と考えられる領域が膜の両側に交互に露出する仕組みである。細胞と人工リポソームを用いた実験では、これらのタンパク質が濃度勾配に沿って特定の小分子色素の流入を促進し、天然のユニポーターに似た挙動を示した。クライオ電子顕微鏡解析と機能解析は、設計した構造と提案された輸送モデルを支持した。この結果は、動的な膜輸送機能を人工的に構築できる可能性を示す。ただし、輸送できる基質の範囲や機構の一般性にはさらなる検証が必要であり、薬物送達などへの応用は、本論文では主に将来の構想として位置付けられている。
著者:Jingyi Zhu, Mingfu Liang, Ke Sun, Yu Wei, Ruiying Guo, Lijing Zhang, Junhui Shi, Dan Ma, Qi Hu, Gaoxingyu Huang, Peilong Lu
膜貫通タンパク質は、脂質環境に適応しながら精密な小分子結合ポケットも形成する必要があり、可溶性タンパク質の設計より多くの制約がある。本研究では深層学習とエネルギーに基づく手法を組み合わせ、蛍光原に結合できる膜貫通タンパク質を de novo 設計した。実験では、設計したタンパク質がリガンドの蛍光を特異的に活性化し、中程度のナノモル濃度域の親和性を示した。また、生きた細菌や真核細胞の膜画分でも活性を維持した。著者らが報告した明るさと量子収率は、比較対象の高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)を上回った。結晶構造とクライオ電子顕微鏡構造は設計モデルとよく一致し、想定した結合様式が裏付けられた。この研究は、膜内のタンパク質–小分子相互作用を比較的高い精度で設計できることを示し、膜に局在するイメージングツールやリガンド検出ツールの開発に新たな道を開く。
著者:Xinyu Xu, Olivier Mailhot, Galen J. Correy, Xi-Ping Huang, Joao M. Braz, Da Shi, Karthik Srinivasan, Kara Zielinski, Yuliia Holota, Yuliia Kuziv, Christos Iliopoulos-Tsoutsouvas, Nathan D. Levinzon, Yagmur U. Doruk, Moira M. Rachman, Morgan E. Diolaiti, Maisie G. V. Stevens, Fangyu Liu, Katie L. Holland, Harald Hübner, Jing Wang, Yujin Wu, Alan Ashworth, Alexandros Makriyannis, Yuqi Zhang, Yurii S. Moroz, Peter Gmeiner, Robert Abel, Aashish Manglik, Allan I. Basbaum, Bryan L. Roth, James S. Fraser, Brian K. Shoichet
今号では54本の論文を紹介する。GPCRのシグナル制御、分子標識と空間オミクス、クライオ電子顕微鏡法、イオンチャネルと神経活動、タンパク質設計、葉緑体へのタンパク質輸送、CTP合成、標的タンパク質分解などを取り上げる。
GPCRの認識機構・動態・シグナル制御(17本)
01 · 鎮痛作用を可逆的に光制御するオピオイド効力スイッチ
Cell · 公開日/巻号発行日:2026-10-15
著者:Luca Posa, Giovanna R. Romano, Xiang Ji, Saif Khan, Antonina L. Nazarova, Sheida Sharghi Moshtaghin, Bruno Paz, Gye Won Han, Anisul Arefin, Alberto J. Gonzalez-Hernandez, Ipsit Srivastava, Saheem A. Zaidi, Kenny Calderon-Godinez, Zixin Zhang, Aaliyah S. Tyson, Mohsen Ranjbar, Kristen E. Pleil, Kanupriya Pande, Vsevolod Katritch, Cornelius Gati, Dirk Trauner, Joshua Levitz
μオピオイド受容体は鎮痛の重要な標的だが、全身投与では作用する場所を限定しにくく、鎮痛作用と副作用を切り離すことも難しい。本研究では、光によって低効力状態と高効力状態を可逆的に切り替え、受容体シグナルを制御できる作動薬AM-3を開発した。両状態の受容体複合体の構造からは、それぞれ異なる結合様式が示され、リガンド、受容体、Gタンパク質の動態にも違いが見られた。マウスの疼痛モデルでは、AM-3によって抗侵害受容作用を可逆的かつ繰り返し光制御できた。著者らは、副作用が比較的少なかった理由として、脳内への蓄積が限られることと、局所で光活性化できることを挙げている。受容体の活性化効力と局所鎮痛を研究する新たなツールとなるが、得られた証拠は動物実験によるものであり、ヒトでの有効性や安全性はまだ判断できない。
注目ポイント · AM-3は可逆的な光スイッチによって受容体の活性化効力を変え、マウスで局所的かつ反復可能な鎮痛制御を実現した。
DOI:10.1016/j.cell.2026.09.042
02 · GPCRのリガンド結合とシグナル伝達を原子・構造・分子レベルから理解する
Nature Reviews Molecular Cell Biology · 公開日/巻号発行日:2026-10-13
著者:Katarina Nemec, Bálint Mészáros, Georgios Skiniotis, Scott C. Blanchard, M. Madan Babu
GPCRのリガンド結合とシグナル出力は、単純なオン・オフの切り替えではない。原子間の接触から受容体の立体構造、細胞内経路まで、複数の階層にまたがる過程である。この総説は、複雑さの段階に沿って近年の研究を整理し、受容体が細胞外シグナルを認識し、リガンドによる構造変化を経て、さまざまなシグナル伝達の仲介分子や細胞内経路と相互作用する仕組みを論じている。特に重視されるのは、置かれた条件への依存性だ。同じ受容体でも、相互作用する分子、調節状態、疾患環境によって振る舞いが変わるため、静的な構造で説明できるのはその一部にすぎない。著者らはさらに、こうした知見が、より選択性の高い介入法の探索にどう役立つかを検討している。本総説の価値は、構造と機能を結ぶマルチスケールの枠組みを示した点にある。異なる実験階層の結果が互いに関連しつつも、単純に同一視はできないことを理解する助けになる。
注目ポイント · GPCRの薬理作用を理解するには、リガンドとの接触、構造変化、細胞内シグナルを一つの枠組みで捉える必要がある。
DOI:10.1038/s41580-026-01030-7
03 · Gタンパク質共役受容体のシグナル制御における天然変性ドメインの役割
Journal of the American Chemical Society · 公開日/巻号発行日:2026-01-14
著者:Jun Xu, Ruoyi Qiu, Alexander M. Garces, Harald Hübner, Xinyu Xu, Chengyu Hao, Dorothee Weikert, Peter Gmeiner, Michael T. Lerch, Brian K. Kobilka
α2Aアドレナリン受容体のシグナル出力は、膜貫通コアだけでなく、柔軟な天然変性領域によっても調節される可能性がある。本研究では、複数の1分子FRET標識の組み合わせを用いて構造変化をリアルタイムに観察した。その結果、活性化に必要なTM6の外向きの動きには高いエネルギー障壁があり、一部が天然変性状態にある細胞外ループECL2は、リガンドごとに異なる動態を示すことが分かった。長い第3細胞内ループICL3は、基底状態では膜の近くで比較的コンパクトな構造をとり、シグナル伝達分子との共役に対して負のアロステリック作用を示した。また、ICL3がとる複数の機能的なサブ状態は、キナーゼによるリン酸化や薬物の効力の影響を受けていた。これらの結果は、天然変性ループ領域が単なる受動的な連結部ではなく、動的な調節モジュールとして働くことを示している。同じ受容体がリガンドに応じて異なるシグナル応答を生み出す理由の理解につながる。
注目ポイント · GPCRの天然変性ループ領域は、動的な構造変化を通じてリガンドの効力とシグナル伝達分子との共役を調節できる。
DOI:10.1021/jacs.5c17796
04 · β2AR–Gタンパク質活性化におけるリガンド効力の1分子解析
Nature · 公開日/巻号発行日:2017-07
著者:G. Glenn Gregorio, Matthieu Masureel, Daniel Hilger, Daniel S. Terry, Manuel Juette, Hong Zhao, Zhou Zhou, Jose Manuel Perez-Aguilar, Maria Hauge, Signe Mathiasen, Jonathan A. Javitch, Harel Weinstein, Brian K. Kobilka, Scott C. Blanchard
GPCRリガンドの効力の違いは、受容体とGタンパク質が活性化する過程の動態の違いに由来する可能性がある。本研究では、1分子FRETでβ2アドレナリン受容体のTM6の動きを追跡し、効力の異なるリガンドの影響をGsの有無で比較した。その結果、部分作動薬と完全作動薬はそれぞれ異なる形でTM6を調節し、GDPが結合した受容体–Gs複合体の形成速度と、その後のヌクレオチド交換効率に影響することが示された。実験では、既存の静的構造では十分に捉えられていない、一過性のヌクレオチド結合状態も検出された。この研究は、リガンド結合ポケットとGタンパク質のヌクレオチド結合ポケットのアロステリックなつながりを、動的な過程として示した。薬物の効力は特定の最終構造だけでなく、状態遷移の速度や経路にも左右されることを示唆している。
注目ポイント · リガンドは受容体の動きとヌクレオチド交換の速度論を変化させることで、Gsの活性化の程度を決める。
DOI:10.1038/nature22354
05 · リガンドの効力がμオピオイド受容体の構造ダイナミクスを調節する
Nature · 公開日/巻号発行日:2024-05
著者:Jiawei Zhao, Matthias Elgeti, Evan S. O’Brien, Cecília P. Sár, Amal EI Daibani, Jie Heng, Xiaoou Sun, Elizabeth White, Tao Che, Wayne L. Hubbell, Brian K. Kobilka, Chunlai Chen
μオピオイド受容体は鎮痛薬の重要な標的である。リガンドごとに異なる内活性が生じる仕組みを理解するには、単一の構造ではなく、動的な構造変化を捉える必要がある。本研究では、二重電子共鳴と1分子FRETを組み合わせ、受容体の細胞質側が異なる時間スケールで相互に遷移する複数の状態を同定した。そのうち、前活性化構造はGタンパク質と結合できる一方、完全活性化構造は三者複合体におけるGDPの親和性を大きく低下させた。これは、結合と実効的な活性化が同じ段階ではないことを示している。著者らはβ-arrestin-1およびGiと受容体コアとの相互作用も比較し、β-arrestin-1の方が親和性も特異性も低いことを示した。これらの結果は、リガンド特異的な構造状態の分布と下流の効力を結びつけ、オピオイド受容体のシグナル選択性を動態から解析する基盤を提供している。
注目ポイント · μオピオイド受容体の前活性化状態と完全活性化状態は、Gタンパク質の結合とGDPの放出で異なる役割を担う。
DOI:10.1038/s41586-024-07295-2
06 · オピオイドの効力を支えるリガンド依存的なGタンパク質動態
Nature Structural & Molecular Biology · 公開日/巻号発行日:2026-10-13
著者:Jonathan C. Deutsch, Daniel Hilger, John Janetzko, Charles M. Schroeder, Steven Chu, Brian K. Kobilka, Rabindra V. Shivnaraine
受容体の活性化後、Gタンパク質はαヘリックスドメインを開き、ヌクレオチド結合部位を露出させることでヌクレオチド交換を進める。本研究では、μオピオイド受容体に共役したGiを1分子FRETで直接観察し、リガンドとヌクレオチドの状態を変えてドメインの動きを比較した。その結果、Gタンパク質から離れた受容体上のリガンドがGタンパク質の動態に影響し、効力の高い作動薬ほど、開いた低ヌクレオチド親和性状態への移行を促しやすいことが分かった。交換過程における一過性の中間状態も捉えられた。この研究は、薬物作用を調べる範囲を受容体そのものから共役相手へと広げた。Gタンパク質の構造集団に対するアロステリック制御も、オピオイドリガンドの効力を規定する仕組みの一つであり、受容体の変化に続く単なる受動的な結果ではないことを示している。
注目ポイント · オピオイドリガンドの効力の違いは、Giのドメイン運動やヌクレオチド交換過程にも伝わる。
DOI:10.1038/s41594-026-01893-6
07 · クラスA GPCRにおけるGタンパク質共役特異性を決める構造と動態
Science Advances · 公開日/巻号発行日:2025-03-19
著者:Marina Casiraghi, Haoqing Wang, Patrick C. Brennan, Chris Habrian, Harald Hübner, Maximilian F. Schmidt, Luis Maul, Biswaranjan Pani, Sherif M. F. M. Bahriz, Bing Xu, Nico Staffen, Tufa E. Assafa, Bohan Chen, Elizabeth White, Roger K. Sunahara, Asuka Inoue, Yang K. Xiang, Robert J. Lefkowitz, Ehud Y. Isacoff, Nathaniel Nucci, Peter Gmeiner, Michael T. Lerch, Brian K. Kobilka
β2アドレナリン受容体は通常、Gsと優先的に共役し、Giとの共役は弱い。この選択性は、複合体が存在するかどうかだけでは説明できない。本研究では、Giに偏った作用を示す作動薬LM189を見いだし、構造解析と生物物理学的な証拠を組み合わせて、各Gタンパク質との共役に必要な受容体の状態を比較した。その結果、細胞内ループICL2と膜貫通ヘリックスTM6の特定の構造が、ともにGsとGiの選別に関与し、受容体の動態もこの選好性に関係することが示された。つまり、Gタンパク質選択性は、配列によって固定された性質としてではなく、受容体内部で変化しうる構造的特徴と結びつけて捉えられる。この知見はバイアス作動薬を理解するための機構的な根拠となり、シグナル選択性の評価には構造状態と機能測定の両方が必要であることを示唆している。
注目ポイント · ICL2とTM6の構造の違いが、ともにβ2受容体のGタンパク質共役選好性に影響する。
DOI:10.1126/sciadv.adq3971
08 · 疼痛治療に向けた機能選択的セロトニン受容体(5-HT1AR)作動薬の発見
Science Advances · 公開日/巻号発行日:2025-06-18
著者:Annika Ullrich, Johannes Schneider, João M. Braz, Eduard Neu, Nico Staffen, Markus Stanek, Jana Bláhová, Tamsanqa Hove, Tamara Albert, Anni Allikalt, Stefan Löber, Karnika Bhardwaj, Sian Rodriguez-Rosado, Elissa Fink, Tim Rasmussen, Harald Hübner, Asuka Inoue, Brian K. Shoichet, Allan I. Basbaum, Bettina Böttcher, Dorothee Weikert, Peter Gmeiner
5-HT1A受容体は痛覚の調節に関与するが、シグナルバイアスを利用して望ましい薬理特性を得る方法は、なお重要な研究課題である。著者らは化合物ライブラリーを起点として、二つの部位に結合する作動薬ST171を見いだした。ST171は主にGi/oを活性化し、Gsの活性化は認められず、β-arrestinの動員も弱かった。また、急性および慢性疼痛モデルで作用を示した。クライオ電子顕微鏡解析では、ST171複合体を、従来型作動薬befiradolのGi複合体およびGs複合体と比較した。その結果、リガンドによって占有する外側の部位が異なり、受容体の構造にも違いが見られた。分子動力学解析も、これらの違いの説明に役立った。本研究は、結合様式、シグナル選択性、モデルでの鎮痛作用を結びつけている。ただし、これらは作用機序と前臨床段階の証拠であり、ヒトでの有効性や安全性の優位性を直接示すものではない。
注目ポイント · 外側の結合様式と受容体構造の違いが、5-HT1A作動薬のシグナルバイアスを構造面から説明する。
DOI:10.1126/sciadv.adv9267
09 · 負のアロステリック調節因子によるGPR3制御の機構と機能
Nature Communications · 公開日/巻号発行日:2025-08-27
著者:Geng Chen, Jana Bláhová, Nico Staffen, Harald Hübner, Nadja Nunhöfer, Chen Qiu, Peter Gmeiner, Dorothee Weikert, Yang Du, Jun Xu
GPCRの二量体化は薬物の作用様式を変える可能性があり、GPR3は二量体に特異的な調節の一例となる。本研究では、GPR3が生細胞内で恒常的にホモ二量体を形成し、阻害剤AF64394がこの状態に対するネガティブアロステリック調節薬として働くことを示した。阻害剤が結合した二量体と、そのGs複合体のクライオ電子顕微鏡構造から、リガンドが膜貫通領域の二量体界面に位置することが分かった。著者らは、リガンドがGsとの接触時に受容体の解離を妨げ、関係する膜貫通領域を不活性状態に似た中間構造にとどめることで、Gsとの共役を低下させるというモデルを提案している。構造解析と機能実験の結果は、受容体のオリゴマー状態が薬理学的選択性を生み出しうることを示すとともに、アロステリック阻害の研究では受容体間の相互作用も考慮する必要があることを示唆している。
注目ポイント · GPR3の二量体界面は、従来のリガンド結合ポケットとは異なる部位でネガティブアロステリック調節を可能にする。
DOI:10.1038/s41467-025-63422-1
10 · TM7の構造スイッチがGPCRのシグナル伝達因子選択性を決める
プレプリント · 公開日/巻号日付:2026/04/21
著者:Guodong He, Maik Pankonin, Guojing Yu, Haiyan Xu, Huan Li, Maximilian Salomon, Hossein Batebi, Xue Guo, Shuhao Zhang, Fang Kong, Li Zhan, Xiaoou Sun, Qingqing Ma, Lan Hua, Sheng Ding, Chuangye Yan, Xin Chen, Zhaobing Gao, Peter W. Hildebrand, Xiangyu Liu
このプレプリントは、μオピオイド受容体が異なるシグナル伝達パートナーをどのように選択するかを検討している。著者らは、Gタンパク質への強いバイアスを示す作動薬を得て、それが結合した受容体–Gi複合体と受容体–GRK2複合体のクライオ電子顕微鏡構造を解析した。さらに、機能と動態のデータを組み合わせ、段階的なゲーティングモデルを提案している。このモデルでは、TM7の構造変化が最終段階のチェックポイントとして働き、その後のβアレスチンの動員に影響する。そのため、受容体が活性化の一部の段階を経ても、すべてのシグナル経路がそのまま進むとは限らない。本研究は、バイアスを伴う薬理作用を、単一の活性化構造の違いではなく、多段階の過程で生じる選択として捉えている。ただし、現時点の根拠はプレプリントで報告された構造解析と実験系に基づくものであり、この作動薬に臨床上の安全性の優位性があると判断することはできない。
注目ポイント · TM7の動的な変化は最終段階のチェックポイントとして働き、GPCRのシグナル伝達パートナーの選択に関わる可能性がある。
DOI:10.65215/LTSpreprints.2026.04.21.000162
11 · Y2受容体を介したニューロペプチドYおよびペプチドYYシグナル伝達の構造基盤
Structure · 公開日/巻号日付:2023-01-05
著者:Hyunook Kang, Chaehee Park, Yeol Kyo Choi, Jungnam Bae, Sohee Kwon, Jinuk Kim, Chulwon Choi, Chaok Seok, Wonpil Im, Hee-Jung Choi
ニューロペプチドYファミリーの受容体は、食欲や情動の調節でそれぞれ異なる役割を担い、リガンドのわずかな違いも受容体選択性を変える。本研究では、PYY(3–36)とNPYがそれぞれ結合したY2受容体–Gi複合体のクライオ電子顕微鏡構造を解析した。細胞実験とシミュレーションも組み合わせ、最初の2つのアミノ酸を除いたPYYが、なぜY2には有効に作用しながら、Y1を同じようには活性化できないのかを説明している。さらに下流経路を比較したところ、Y2は活性化後にGタンパク質シグナルを優先する一方、Y1ではGタンパク質とβアレスチンの間に同様の偏りは見られなかった。この研究はリガンド認識の違いとシグナルバイアスを結び付け、同じファミリーの受容体であっても、リガンド結合や機能を同じモデルで単純に説明できないことを示唆している。
注目ポイント · Y2は、リガンド認識の特徴とGタンパク質シグナルを優先する性質の両面で、同じファミリーのY1受容体と異なる。
DOI:10.1016/j.str.2022.11.010
12 · Y1受容体を介したニューロペプチドYシグナル伝達の構造基盤
Nature Communications · 公開日/巻号日付:2022-02-14
著者:Chaehee Park, Jinuk Kim, Seung-Bum Ko, Yeol Kyo Choi, Hyeongseop Jeong, Hyeonuk Woo, Hyunook Kang, Injin Bang, Sang Ah Kim, Tae-Young Yoon, Chaok Seok, Wonpil Im, Hee-Jung Choi
NPYは摂食や不安など、さまざまな生理過程に関わるが、Y1受容体との具体的な相互作用は、これまで構造から十分に説明されていなかった。本研究ではNPY–Y1–Gi1複合体を解析し、伸びた構造をとるペプチドのC末端が受容体の膜貫通領域の中心に入り、末端のアミド化残基が結合ポケットの底に位置することを示した。同時に、NPYのヘリックス領域とN末端領域は受容体の細胞外ループに接触し、高親和性の結合にさらに寄与していた。構造解析と変異導入実験はいずれも、複数の領域が協調して認識に関わるこのモデルを支持している。この結果は、ペプチド全体のさまざまな部分が活性に影響しうる理由の理解に役立ち、Y1とほかのNPY受容体の選択性を比較する基盤にもなる。局所的な1つの接触だけで、薬理学的な特徴をすべて説明できるわけではない。
注目ポイント · NPYによる膜貫通ポケットへの結合と細胞外ループへの接触が、Y1受容体による認識と活性化をともに支える。
DOI:10.1038/s41467-022-28510-6
13 · 構造に基づく探索で見いだした、α2Aアドレナリン受容体を介して作用する非オピオイド鎮痛薬
Science · 公開日/巻号日付:2022-09-30
著者:Elissa A. Fink, Jun Xu, Harald Hübner, Joao M. Braz, Philipp Seemann, Charlotte Avet, Veronica Craik, Dorothee Weikert, Maximilian F. Schmidt, Chase M. Webb, Nataliya A. Tolmachova, Yurii S. Moroz, Xi-Ping Huang, Chakrapani Kalyanaraman, Stefan Gahbauer, Geng Chen, Zheng Liu, Matthew P. Jacobson, John J. Irwin, Michel Bouvier, Yang Du, Brian K. Shoichet, Allan I. Basbaum, Peter Gmeiner
α2Aアドレナリン受容体は非オピオイド鎮痛の標的候補だが、既存薬はしばしば鎮静を伴う。本研究では、3億を超える仮想分子を対象にドッキングスクリーニングを実施し、一般的な薬とは異なる新しい骨格を探索した。その結果、活性を持つ一群のリガンドが得られ、その多くが部分作動性とGi、Goシグナルへのバイアスを示した。2種類の作動薬について実験的に決定した複合体構造は、ドッキング予測を裏付け、さらなる最適化の手掛かりとなった。初期ヒット化合物とその類縁体のいくつかは、複数の生体内疼痛モデルで標的を介した鎮痛作用を示し、それに伴う鎮静は観察されなかった。本研究は大規模な構造ベースのスクリーニングと実験検証の連携を示すとともに、同じ受容体でもリガンドによって薬理作用が変わりうることを示している。ただし、これらは前臨床段階の知見であり、そのままヒトでの治療上の優位性を意味するものではない。
注目ポイント · 構造ベースのスクリーニングで得られた新しいα2A作動薬は、動物モデルで鎮痛と鎮静を切り離せる可能性を示した。
DOI:10.1126/science.abn7065
14 · 神経変性疾患と精神疾患におけるGタンパク質共役受容体
Signal Transduction and Targeted Therapy · 公開日/巻号日付:2023-05-03
著者:Thian-Sze Wong, Guangzhi Li, Shiliang Li, Wei Gao, Geng Chen, Shiyi Gan, Manzhan Zhang, Honglin Li, Song Wu, Yang Du
神経変性疾患や精神疾患の原因は複雑で多様であり、単一の分子変化だけでは症状全体を説明できないことが多い。この総説はGPCRを切り口に、関連疾患で各受容体が果たす役割と、受容体の機構・構造研究がもたらす新たな創薬の可能性をまとめている。著者らは、新たに注目される標的と最近の薬物研究の進展を取り上げ、受容体レベルの知見を多因子疾患の背景と結び付けて論じている。本稿は標的と研究の方向性を俯瞰するものであり、取り上げたすべての受容体について治療への有用性が同程度に検証されているわけではない。神経・精神疾患の生物学的な課題と、機能を調節できる受容体システムをつなぐ点に価値がある一方、基礎的な機構の理解から有効な介入へ進むには、なお証拠の隔たりを埋める必要があることも踏まえている。
注目ポイント · GPCRは神経・精神疾患への多様な介入の糸口となるが、標的としての価値は疾患の多様性を踏まえて判断する必要がある。
DOI:10.1038/s41392-023-01427-2
15 · 単量体CXCL12が結合した活性型CXCR4のクライオ電子顕微鏡構造
Cell Reports · 公開日/巻号日付:2024-08-27
著者:Yezhou Liu, Aijun Liu, Xinyu Li, Qiwen Liao, Weijia Zhang, Lizhe Zhu, Richard D. Ye
CXCL12–CXCR4シグナルは造血細胞の局在や腫瘍関連の過程に関わるが、作動薬が結合した活性型構造の全体像は、これまで明らかではなかった。本研究ではCXCL12–CXCR4–Gi複合体の高分解能クライオ電子顕微鏡構造を決定し、リガンドと受容体が1対1で結合することを示した。この結合様式は、ケモカイン認識の2部位モデルにも合致する。リガンドのN末端は膜貫通ポケットに入り、受容体内部で活性化に寄与する接触を形成する。構造解析、機能実験、計算解析を組み合わせることで、これらの相互作用が受容体の構造変化とGタンパク質の活性化にどうつながるかを説明している。本研究は、拮抗薬結合構造から得られていた知見に活性状態の理解を加え、同じ受容体がとる異なる薬理学的状態を理解する基盤となる。ただし、新たな臨床介入法を直接確立したものではない。
注目ポイント · CXCL12が結合した活性型構造により、CXCR4のリガンド認識からGタンパク質活性化までの仕組みがより明確になった。
DOI:10.1016/j.celrep.2024.114578
16 · 光架橋を利用したリガンド同定により、代謝に関わるGPR50–L-LENの組み合わせを解明
Nature Chemical Biology · 公開日/巻号日付:2026-07
著者:Rui Wu, Na Li, Zhihui Wen, Ya Wang, Shitian Li, Hao Zhou, Yuehong Huang, Xiao Xie, Xiaoyun Zhao, Xiaohui Wang, Shaoxin Tao, Guoliang Chai, Tongfei A. Wang, Zhen Li, Peng R. Chen, Miao Jing
多くのGPCRでは内因性リガンドがまだ分かっておらず、生理機能や薬理作用の研究を制約している。著者らは、光架橋を利用してオーファン受容体のリガンドを同定するプラットフォームを構築した。認識界面でリガンドを捕捉する仕組みを使い、天然の生体試料からリガンドを探索するとともに、複数の既知の受容体–リガンドの組み合わせで性能を検証した。さらに、神経ペプチドL-LENがGPR50の内因性リガンドであると提案し、この受容体と下流のGiシグナルを介して細胞活動を調節することを支持する結果を示した。マウスでは、この組み合わせが脳–脂肪間の情報伝達、エネルギー消費、熱産生に関わり、関連する構成要素を欠くと、ストレス条件下で休眠様状態に入る可能性が高まった。本研究はリガンド探索のツールと代謝調節の手掛かりを提供するが、異なる生物学的状況にも適用できるかは、さらなる検討が必要である。
注目ポイント · 光架橋を利用した捕捉によりGPR50の内因性リガンド候補が見つかり、体温・エネルギー調節とのつながりが示された。
DOI:10.1038/s41589-025-02098-6
17 · プログラム可能な感知と細胞挙動の制御を実現する合成GPCR
Nature · 公開日/巻号日付:2025
著者:Nicholas A Kalogriopoulos, Reika Tei, Yuqi Yan, Peter M Klein, Matthew Ravalin, Bo Cai, Ivan Soltesz, Yulong Li, Alice Y Ting
合成受容体は特定の抗原を細胞応答へと変換できるが、既存のシステムには、認識できる抗原の形態、出力の種類、薬物による制御の面でそれぞれ制約がある。本研究は合成GPCR「PAGER」を提案した。抗原の結合によって受容体の抑制が解除され、さらに薬物に応答できるようになることで、抗原認識を制御可能なシグナル出力につなげる。著者らは、可溶性抗原と細胞表面抗原の計十数種類への応答を示した。受容体の骨格を変えることで、遺伝子発現、蛍光による読み出し、内在性Gタンパク質の活性化を引き起こすことができる。応用例として、細胞の遊走、分化、抗体分泌、脳切片での神経活動の調節も示された。本研究はモジュール型受容体工学の幅広い用途を示しているが、さまざまな場面での検証は、各種の治療応用が実用段階に達したことを意味しない。個々の細胞環境に応じた評価がなお必要である。
注目ポイント · PAGERは抗原認識、薬物制御、多様なGPCR出力を組み合わせ、プログラム可能な細胞センシング基盤を実現する。
DOI:10.1038/s41586-024-08282-3
分子標識、イメージングと空間オミクス(12報)
18 · 分野横断的な知見がもたらす蛍光タンパク質とバイオセンサーの最近の進展
Nature Methods · 公開日/巻号日付:2026-10-16
著者:Anneliese M. M. Gest, Sohum Mehta, Jin Zhang
蛍光タンパク質とバイオセンサーの開発では、化学、物理学、タンパク質工学、スクリーニング技術の連携がますます重要になっている。この総説は、蛍光タンパク質工学の最近の進展を整理し、光安定性の向上や発光波長の長波長化といった設計目標を重点的に論じている。また、mScarletを例に、異なる分野の知見がどのように性能向上へつながるかを説明している。新しい蛍光センサーについても、スクリーニング、定量イメージング、空間分解能、多重検出の進展をまとめ、プローブそのものと測定手法がいかに協調して観測能力を高めるかに注目している。最後に、次世代の蛍光ツールの開発の方向性を論じている。本稿は単一の新規プローブの性能報告ではなく、既存技術と設計の考え方を総合的に解説したものである。
注目ポイント · 蛍光ツールの進歩は、分子設計、スクリーニング、イメージング手法の連携した発展から生まれる。
DOI:10.1038/s41592-026-03268-7
19 · 生細胞内でクロマチンのアシル化マークに対応するプロテオームとゲノムを結び付ける
Cell · 公開日/巻号日付:2023-03-02
著者:Fangfei Qin, Boyuan Li, Hui Wang, Sihui Ma, Jiaofeng Li, Shanglin Liu, Linghao Kong, Huangtao Zheng, Rongfeng Zhu, Yu Han, Mingdong Yang, Kai Li, Xiong Ji, Peng R. Chen
ヒストン修飾は代謝状態と関わるとともに、クロマチンの相互作用や遺伝子制御にも影響する。しかし、特定部位の修飾とその局所環境を直接結びつけるのは容易ではない。本研究では、単一部位の分解能を持つマルチオミクス手法 SiTomics を提案し、生細胞で特定のクロマチンアシル化マークに対応するタンパク質とゲノム上の分布を解析した。短鎖脂肪酸による刺激後のクロトニル化とβ-ヒドロキシブチリル化を比較したところ、修飾ごとに異なる関連パターンが見られ、H3K56cr の遺伝子本体への局在を調節する相互作用タンパク質 GLYR1 が同定された。また、β-ヒドロキシブチリル化の作用の一部とスーパーエンハンサーの変化との関連も示された。この手法により、代謝物、修飾、制御の関係を一つの枠組みで研究できるようになる。他の修飾への応用には、それぞれ検証が必要だ。
ハイライト · SiTomics は、特定部位のクロマチン修飾を、その周囲のタンパク質やゲノム環境と対応づける。
DOI:10.1016/j.cell.2023.02.007
20 · APEX-seq で明らかになった RNA の細胞内局在アトラス
Cell · 公開年/巻号の発行年:2019
著者:Furqan M Fazal, Shuo Han, Kevin R Parker, Pornchai Kaewsapsak, Jin Xu, Alistair N Boettiger, Howard Y Chang, Alice Y Ting
RNA の細胞内での位置は、そのプロセシングや機能を左右する。しかし、従来の分画法では複雑な局所環境を細かく描き出すのが難しい。APEX-seq は RNA を直接近接標識してからシーケンシングし、9種類の細胞内領域について、さまざまな RNA の種類や転写産物アイソフォームを含むヒトトランスクリプトームの空間マップを構築した。研究から、核内トランスクリプトームが放射状に配置されていることが明らかになり、核膜孔の内側では成熟転写産物の核外輸送に空間的な選別が働くことも示唆された。ミトコンドリア近傍では、異なる転写産物群やオルガネラ内部の装置に対応する、関連した2つの mRNA 局在経路が見つかった。本研究は RNA シーケンシングと空間的な局在を結びつけ、さらなる探索に使えるアトラスを提供する。ただし、近接標識による濃縮が示すのは空間的な関連であり、具体的な輸送機構や機能を判断するには他の実験と組み合わせる必要がある。
ハイライト · APEX-seq は転写産物の種類と細胞内の近接位置を結びつけ、RNA の空間配置を明らかにする。
DOI:10.1016/j.cell.2019.05.027
21 · Split-TurboID による細胞内の接触依存的な近接標識
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America · 公開年/巻号の発行年:2020
著者:Kelvin F Cho, Tess C Branon, Sanjana Rajeev, Tanya Svinkina, Namrata D Udeshi, Themis Thoudam, Chulhwan Kwak, Hyun-Woo Rhee, In-Kyu Lee, Steven A Carr, Alice Y Ting
従来の近接標識でも局所のプロテオームは解析できるが、2つのオルガネラの接触領域を調べるには、標識範囲をより厳密に絞る必要がある。Split-TurboID は酵素を単独では不活性な2つの断片に分け、タンパク質間相互作用や膜の接近によって両者が出会ったときだけ標識活性を回復させる。小胞体–ミトコンドリア接触部位への応用では、これまでこの領域との関連が知られていなかった候補を含む100種類以上の内在性タンパク質が同定され、そのうち8種類が生化学的分画とイメージングで検証された。この手法は酵素活性を接触の有無に連動させることで、オルガネラ表面全体の標識によるバックグラウンドの低減に役立つ。同定されたタンパク質が接触の形成や関連する物質交換に直接関わるかどうかは、機能実験による確認が必要だ。
ハイライト · 分割型 TurboID は接触に依存した酵素の再構成により、オルガネラ間の界面をより限定的に標識する。
DOI:10.1073/pnas.1919528117
22 · TransitID による生細胞内・細胞間のプロテオーム輸送の動的マッピング
Cell · 公開年/巻号の発行年:2023
著者:Wei Qin, Joleen S Cheah, Charles Xu, James Messing, Brian D Freibaum, Steven Boeynaems, J Paul Taylor, Namrata D Udeshi, Steven A Carr, Alice Y Ting
タンパク質の居場所がわかっても、どこから来て、どこへ向かったかがわかるとは限らない。TransitID は出発点と到達点の区画に配置した2種類の近接標識系を使い、両方の環境を経た内在性タンパク質を同定することで、質量分析の対象をタンパク質の輸送履歴へと広げる。著者らは細胞質とミトコンドリア、核の間の移動や、核小体とストレス顆粒のつながりを調べ、ストレス顆粒が酸化ストレス時の転写因子 JUN の保護に関わることを見いだした。また、マクロファージとがん細胞の間で受け渡されるタンパク質の同定にも応用した。この手法の大きな貢献は、出発点と到達点によってタンパク質集団を定義し、静的な局在マップでは得にくい情報を補える点にある。具体的な経路や直接的な作用については、さらに検証が必要だ。
ハイライト · TransitID は出発点と到達点での二重標識により、静的なタンパク質局在の解析を輸送過程の解析へと発展させる。
DOI:10.1016/j.cell.2023.05.044
23 · 空間的に限定した酵素標識による生細胞内ミトコンドリアのプロテオームマッピング
Science (New York, N.Y.) · 公開年/巻号の発行年:2013
著者:Hyun-Woo Rhee, Peng Zou, Namrata D Udeshi, Jeffrey D Martell, Vamsi K Mootha, Steven A Carr, Alice Y Ting
顕微鏡イメージングは空間情報を得られるものの、通常は少数の標識タンパク質しか観察できない。一方、質量分析では多数の内在性タンパク質を同定できるが、生細胞内での位置関係が失われやすい。本研究では、特定の場所へ局在させられるペルオキシダーゼで近傍のタンパク質を標識し、質量分析で読み出すことで、両者の長所を組み合わせた。ミトコンドリアマトリックスへの応用では495種類のタンパク質を同定し、そのうち31種類はそれまでミトコンドリアとの関連が知られていなかった。また、内膜タンパク質のマトリックス側を向く部分と膜間腔側を向く部分を標識によって区別でき、従来の局在に関する理解の一部は、その後の電子顕微鏡観察で修正された。本研究は生細胞内で局所の内在性プロテオームを捉える手法を確立し、従来の分画法では調べにくい微小環境を解析する道を開いた。
ハイライト · 空間的に限定した酵素標識により、生細胞内の位置関係を後続の質量分析によるタンパク質同定に引き継ぐ。
DOI:10.1126/science.1230593
24 · TurboID による生細胞・生体内での効率的な近接標識
Nature biotechnology · 公開年/巻号の発行年:2018
著者:Tess C Branon, Justin A Bosch, Ariana D Sanchez, Namrata D Udeshi, Tanya Svinkina, Steven A Carr, Jessica L Feldman, Norbert Perrimon, Alice Y Ting
初期の近接標識は長時間を要することが多く、透過性や毒性に難のある試薬を使う場合もあり、短時間の過程や生体全体を対象とした研究には制約があった。著者らは指向性進化によってビオチンリガーゼ変異体 TurboID と miniTurbo を作製し、初期の BioID 系に比べて標識効率を大幅に高めた。報告された細胞条件では、これらは比較的短い時間で近接標識を完了でき、導入しやすいビオチンを使用する。ショウジョウバエと線虫での応用も示された。本研究の要点は、ツールの時間分解能と適用範囲を改善し、空間プロテオミクスをより多くの生物系で使えるようにした点にある。ただし、実験で得られる標識シグナルはあくまで局所的な近接関係を示すものであり、濃縮されたことだけを根拠にタンパク質同士が直接結合しているとは判断できない。
ハイライト · TurboID は効率的なビオチン近接標識を、より短い時間枠と生体全体へと広げる。
DOI:10.1038/nbt.4201
25 · 電子顕微鏡観察と近接標識に向けた APEX2 の指向性進化
Nature methods · 公開年/巻号の発行年:2015
著者:Stephanie S Lam, Jeffrey D Martell, Kimberli J Kamer, Thomas J Deerinck, Mark H Ellisman, Vamsi K Mootha, Alice Y Ting
APEX は電子顕微鏡用の標識にも、生細胞プロテオームの近接標識にも使えるが、発現量が低い場合の感度が応用の妨げになる。本研究では指向性進化によって酵素の触媒効率を高め、細胞内でより高い活性を示す APEX2 を得た。著者らはこれを使い、ミトコンドリアのカルシウム取り込みを調節するタンパク質 MICU1 のミトコンドリア内局在を明らかにするとともに、ミトコンドリア膜や小胞体膜に関連する内在性タンパク質の濃縮を改善した。まったく新しい局在解析の原理を提案するというより、弱いシグナル条件でも既存ツールを使いやすくし、電子顕微鏡による局在解析と局所のタンパク質解析の対象を広げた点が重要だ。要旨は比較的短く、示された利点は主にこれらの検証系に基づくため、あらゆる細胞内区画での性能を直接定量的に評価することはできない。
ハイライト · APEX2 の高い活性により、電子顕微鏡による局在解析と細胞内の近接タンパク質濃縮の感度が向上した。
DOI:10.1038/nmeth.3179
26 · 生細胞内でタンパク質を部位特異的に標識する蛍光色素リガーゼ
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America · 公開年/巻号の発行年:2010
著者:Chayasith Uttamapinant, Katharine A White, Hemanta Baruah, Samuel Thompson, Marta Fernández-Suárez, Sujiet Puthenveetil, Alice Y Ting
PRIME は、大きな蛍光タンパク質タグが標的に及ぼす影響を抑えるため、短いペプチドタグと改変リガーゼを使って、生細胞内で特定のタンパク質に低分子蛍光色素を結合させる。研究では天然のリポ酸リガーゼの基質認識を改変し、クマリン系プローブを標的ペプチドに共有結合させられるようにした。検証した系では、哺乳類の内在性タンパク質に対する高い選択性も維持された。さらに、リガーゼを異なる区画に局在させることで、細胞表面のニューレキシンや核内のアクチンなど、空間的に異なるタンパク質集団を選択的に標識した。本研究は、標識の特異性を標的配列だけでなく酵素の位置によっても限定できることを示し、生細胞のタンパク質イメージングに小さなタグを使う選択肢を提供する。
ハイライト · PRIME は短いペプチドの認識と酵素の細胞内局在を組み合わせ、特定のタンパク質集団を蛍光標識する。
DOI:10.1073/pnas.0914067107
27 · 電子顕微鏡用の遺伝子コード型レポーターとしての改変アスコルビン酸ペルオキシダーゼ
Nature biotechnology · 公開年/巻号の発行年:2012
著者:Jeffrey D Martell, Thomas J Deerinck, Yasemin Sancak, Thomas L Poulos, Vamsi K Mootha, Gina E Sosinsky, Mark H Ellisman, Alice Y Ting
電子顕微鏡ではナノメートルスケールの構造を観察できるが、多くの遺伝子コード型タグは一部の細胞内区画で活性を示さなかったり、光照射を必要としたりするため、適用範囲が限られる。本研究で開発された単量体ペルオキシダーゼタグ APEX は、多様な細胞内区画で働き、強めの固定条件にも耐えることで、局在シグナルの検出と微細構造の保存を両立する。著者らは哺乳類の複数のオルガネラや特定のタンパク質のイメージングを示した。また、ミトコンドリアカルシウムユニポーター MCU との融合により、その両末端に対応する電子顕微鏡のコントラストシグナルがいずれもマトリックス側にあることを観察し、議論のあった膜トポロジーを裏づける証拠を得た。本研究は遺伝的に指定できる局在と電子顕微鏡で見えるシグナルを結びつけた。光活性化を必要としないため、試料の厚さが標識過程に与える制約も軽減される。
ハイライト · APEX は遺伝子コードで指定した局在を電子顕微鏡のコントラストシグナルに変換し、膜タンパク質のトポロジー判定に役立つ。
DOI:10.1038/nbt.2375
28 · フェムトモルの結合親和性を持つビオチン結合部位を1つだけ備えた単価ストレプトアビジン
Nature methods · 公開年/巻号の発行年:2006
著者:Mark Howarth, Daniel J-F Chinnapen, Kimberly Gerrow, Pieter C Dorrestein, Melanie R Grandy, Neil L Kelleher, Alaa El-Husseini, Alice Y Ting
ストレプトアビジンはビオチンと強く結合するが、天然の四量体は複数の結合部位を持つため、標識時に標的を架橋し、本来の分布や機能を変えてしまう可能性がある。本研究では四量体の全体構造を保ちながら、ビオチンと結合できる部位を1つだけにすることで、単価の認識と、天然型に近い親和性、解離特性、熱安定性を両立した。ニューロリギン1の追跡では、単価型は明らかな架橋を起こさずに標的を安定して追跡できた。一方、多価の野生型は凝集を引き起こし、シナプス前部との接触を妨げた。この結果は、イメージングプローブの結合価数そのものが重要な実験変数であることを示す。このツールは、単粒子追跡や生体分子標識で、プローブに誘発される凝集を抑える選択肢となる。
ハイライト · 単価ストレプトアビジンは強い結合能を保ちつつ、多価タグによる標的の架橋を抑える。
DOI:10.1038/nmeth861
29 · ビオチンリガーゼを用いた生物物理学的プローブによる細胞表面タンパク質の部位特異的標識
Nature methods · 公開年/巻号の発行年:2005
著者:Irwin Chen, Mark Howarth, Weiying Lin, Alice Y Ting
細胞表面タンパク質を精密に標識するには、多様な内在性分子が混在する環境で標的を識別し、性質の異なるプローブにも対応する必要がある。本研究では、ビオチンリガーゼが短い受容体ペプチドの配列を認識する性質を利用して、反応性の官能基を標的タンパク質に導入し、そこに蛍光プローブや光親和性プローブを結合させた。精製タンパク質、細胞溶解液、生細胞表面の EGFR でこの手法を実証し、酵素による選択的な認識と、その後の化学的な連結を組み合わせられることを示した。この方法の意義は、標的の認識とプローブの選択を切り離し、同じ標識の仕組みをさまざまな生物物理学的測定に応用できる点にある。ただし、標的に認識タグを付加する必要があるため、タグの導入やプローブがタンパク質の局在と機能に与える影響も考慮する必要がある。
注目ポイント · 酵素による短鎖ペプチドの認識と、その後の化学的な連結を組み合わせ、細胞表面タンパク質を多様なプローブで標識。
DOI:10.1038/nmeth735
クライオ電子顕微鏡の試料作製と再構成(6 報)
30 · ソフトランディングとレーザーフラッシュ融解によるクライオ電子顕微鏡試料の作製
Nature Communications · 公開日/巻号発行日:2026-09-15
著者:Sarah V. Barrass, Tim K. Esser, Nathan J. Mowry, Lukas Eriksson, Jakub Wenz, Laurence T. Seeley, Wyatt A. Curtis, Lindsay A. Baker, Marcel Drabbels, Stephan Rauschenbach, Ulrich J. Lorenz
ソフトランディング質量分析はクライオ電子顕微鏡の試料作製を簡略化する可能性があるが、タンパク質は堆積中に脱水するため、通常は収縮した構造しか観察できない。本研究では、ソフトランディングで得た試料を非晶質氷で覆い、短時間のレーザー融解によってタンパク質の水和状態の回復を試みた。処理後には、部分的な再水和の程度が異なる粒子集団が形成され、その一部は天然に近い構造をとっていた。この結果は、脱水による構造変化が少なくともある程度は可逆的であることを示し、質量分析による選別と電子顕微鏡観察をつなぐ根拠となる。著者らはこれを踏まえ、再水和をさらに完全にするための方向性を示している。ただし、構造が回復した粒子は一部にとどまり、試料全体が安定して天然状態に戻るとまではいえない。
注目ポイント · 短時間のレーザー融解により、ソフトランディングしたタンパク質の一部が天然に近い構造を回復。
DOI:10.1038/s41467-026-77723-6
31 · CryoTriplane:高分解能クライオ電子顕微鏡の均一構造の三次元再構成に向けた、三平面に基づくニューラル放射場表現
Bioinformatics · 公開日/巻号発行日:2026-10-13
著者:Yiran Cheng, Bintao He, Qiong Zeng, Fa Zhang, Renmin Han
CryoTriplane は、ノイズの多いクライオ電子顕微鏡の投影像から均一な三次元構造を再構成するため、三平面ニューラル放射場とハイブリッド空間表現を採用している。まず固定位置エンコーディングで頑健な全体構造を構築し、次に構造を考慮したエンコーディングで高周波の細部を補う。これにより、従来の周波数領域の手法における情報分布の問題と、実空間ニューラルネットワークのスペクトルバイアスの緩和を図る。著者らはシミュレーションデータセット 5 件と実データセット 4 件で再構成の性能を比較し、さらに原子モデルの構築を通じて密度マップの品質を評価した。対象とした 2 件の EMPIAR データセットでは、対照手法に比べて配列カバー率がそれぞれ 4.6% と 5.5% 向上した。この研究の焦点は全体の整合性と局所的な細部の両立にあり、報告された優位性は、評価に使ったデータと比較対象の手法を踏まえて捉える必要がある。
注目ポイント · ハイブリッド空間エンコーディングにより、CryoTriplane は三次元再構成でノイズへの強さと高周波の細部を両立。
DOI:10.1093/bioinformatics/btag754
32 · 単粒子クライオ電子顕微鏡法:理論と実践
Quarterly Reviews of Biophysics · 公開日/巻号発行日:2026/01
著者:Ardan Patwardhan, Peter B. Rosenthal, Christopher J. Russo, Richard Henderson
この総説では、放射線損傷による制約を出発点として、理想的な撮像条件で各分解能を達成するために必要な単粒子画像数を見積もり、EMDB に登録された公表構造の実績と比較している。著者らによると、近年の 2.5–3.0 Å 構造の一部では、必要な画像数が理論的な予測に近づき、その差は 3 倍未満となっている。一方、より典型的なデータセットでは、なお理論値の約 100 倍の画像を要する場合があり、さらに高分解能を目指す研究にも同様の隔たりがある。論文では、情報の記録と抽出の段階で生じる損失や、理論と実践の差を縮める方策を論じている。また、優れた構造であっても放射線損傷を受けており、撮影初期の低線量画像に含まれる情報をより有効に活用することが重要だと強調する。最終的な分解能だけを見るよりも、データ収集の効率を幅広く評価できる視点を提示している。
注目ポイント · 理論上の必要画像数と実際のデータ量の差から、単粒子クライオ電子顕微鏡法には情報利用効率を改善する余地がなお残ることがわかる。
DOI:10.1017/S0033583526100249
33 · カルシニューリンとの融合がクラス A GPCR のクライオ電子顕微鏡構造解析を促進
Proceedings of the National Academy of Sciences · 公開日/巻号発行日:2024-11-26
著者:Jun Xu, Geng Chen, Haoqing Wang, Sheng Cao, Jie Heng, Xavier Deupi, Yang Du, Brian K. Kobilka
クラス A GPCR は小さく、G タンパク質などの大きな結合相手がない状態では、膜貫通コアも界面活性剤ミセルに囲まれるため、粒子の位置と向きを合わせるのが特に難しい。本研究では、カルシニューリンと受容体を複数の箇所でつなぐ融合戦略を提案し、膜外に剛性の高い基準構造を設けた。この方法で β2 アドレナリン受容体のリガンド非結合状態、アンタゴニスト結合状態、アゴニスト結合状態を解析し、安定して追跡できる構造的特徴を加えることが、小型膜タンパク質の構造情報の復元に役立つと示した。この方法の主な価値は、天然のシグナル伝達複合体に依存しない構造解析の条件を広げる点にあり、融合後の動的挙動がすべて天然受容体と同じだと証明したわけではない。他のクラス A GPCR への適用性は、対象ごとに検証する必要がある。
注目ポイント · 剛性の高い多点融合により、小型 GPCR のクライオ電子顕微鏡解析で粒子の位置と向きを合わせるための基準を追加。
DOI:10.1073/pnas.2414544121
34 · CryoSHIELDs:クライオ電子顕微鏡用の性質を調整できる両親媒性ペプチド添加剤
プレプリント · 公開日/巻号発行日:2026-10-08
著者:Caleigh M. Azumaya, Przemysław Dutka, Matthew C. Johnson, Cheng-Guo Wu, Bryce D. Delgado, Christopher W. Koo, Jeffrey Y. K. Tom, Tik Hang Soong, Sandeep K. Ravala, Alister Burt, Shu Ti, Anna C. Howes, Orlando E. Martinez, Aimin Song, Alexis Rohou, Claudio Ciferri, Stanislau Yatskevich
気液界面は、クライオ電子顕微鏡試料の損傷、優先配向、粒子密度の不足を引き起こす。CryoSHIELDs のプレプリントでは、この界面の不活性化によってガラス化前の試料状態を改善するため、化学的性質を調整できる一群の両親媒性ペプチド添加剤を提案している。著者らは GPCR、ABC・SLC トランスポーター、可溶性複合体、Fab を含む複合体など 24 の系で試験し、構造決定の成功率が向上したと報告した。添加剤によって、粒子分布、角度サンプリング、複合体の安定性、マップの品質のいずれかが改善した。一部の例では、より低いタンパク質濃度でも構造が得られた。これらの結果は、試料の特性に応じて界面保護用の添加剤を選ぶ考え方を支持する。ただし、同じ組成がすべての系に適するわけではなく、対象試料に合わせた評価が必要である。
注目ポイント · 性質を調整できる両親媒性ペプチド添加剤が気液界面の状態を改善し、さまざまな試料のクライオ電子顕微鏡解析を向上。
DOI:10.64898/2026.10.01.755993
35 · 組織解析に向けて最適化した連続リフトアウト型クライオ集束イオンビーム加工法の段階的手順
Biophysics Reports · 公開日/巻号発行日:2025
著者:Xiaoyu Tang, Jiaming Liu, Jingtao Zheng, Huanhuan Huang, Zihang Yu, Ying Liu, Peng Wang, Meijing Li
組織試料のクライオ電子線トモグラフィーでは、厚い材料から安定した薄片を作る必要がある。しかし、連続リフトアウト型 cryo-FIB の操作は複雑で、薄片も不安定になりやすい。この手法論文は、多細胞組織を対象とする最適化した工程を体系的にまとめたもので、さまざまな大きさの組織に対応できるよう、薄片の固定方法、切り込みの間隔、再接着の確実性に重点を置いている。著者らは、多様な生体組織に適用でき、クライオ相関光電子顕微鏡の工程とも組み合わせられると強調する。構造の保存、再現性、操作の一貫性を改善し、操作者の経験への依存を減らすことが狙いである。この論文は、組織レベルでのその場構造解析を支える試料作製法を提供するものであり、試料作製工程そのものを、特定の生物学的機構の発見と同一視することはできない。
注目ポイント · 組織薄片の固定と移送の最適化が、cryo-ET 試料作製の安定性と再現性の向上に寄与。
DOI:10.52601/bpr.2025.250039
イオンチャネル、輸送、神経活動の記録(5 報)
36 · ヒト Na+ 依存性 Cl−/HCO3− 交換体 NCBE(SLC4A10)の基質共役と阻害
Nature Communications · 公開日/巻号発行日:2026-10-01
著者:Peixin Sun, Xinmin Wang, Yang Huang, Jinlun Kylian Zhang, Xurui Shen, Anqi Dong, Shiliang Wang, Xiaojun Guo, Guoming Shi, Jing Ding, Yudan Chi, Hanting Yang
NCBE は脳脊髄液の酸塩基調節に関わるナトリウム依存性陰イオン交換体だが、そのイオン共役機構は明らかでなかった。本研究では、ヒト NCBE の複数の状態をクライオ電子顕微鏡で解析し、ナトリウム、塩化物、炭酸水素イオンの結合領域を同定した。さらに予想外のカリウムイオン結合部位も観察され、陽イオン選択性が比較的広い可能性が示唆された。阻害剤 DIDS は基質結合腔の上方に位置し、タンパク質を外向き構造に安定化していた。機能実験と分子動力学シミュレーションも、イオンの配位と阻害作用を裏づけた。著者らはさらに、実験構造を AlphaFold3 が予測した内向きモデルと比較し、エレベーター型の輸送機構を提案した。ただし、内向き状態は予測に基づくため、構造変化の全サイクルにはモデルからの推論が含まれる点を区別する必要がある。
注目ポイント · 複数の状態の NCBE 構造が、イオン共役、阻害剤認識、エレベーター型輸送の可能性を結びつけた。
DOI:10.1038/s41467-026-77504-1
37 · 蚊の IR におけるリガンド認識とゲーティングの構造基盤
Nature · 公開日/巻号発行日:2026-10-14
著者:Li Xu, Xin Wang, Xuebo Quan, Stephen T. Ferguson, Dong Liu, Jiawei Chen, Sai Wang, Simin Liang, Gaoxingyu Huang, Kai Huang, Feng Liu, Xiaojing Pan
昆虫のイオンチャネル型受容体は環境中の化学シグナルを認識するが、リガンド選択性がどのようにチャネルの開口につながるのかは、構造面から十分に説明されていなかった。本研究では、蚊由来の IR 複合体の複数の状態を解析し、機能測定とシミュレーションを組み合わせて、リガンド非結合構造、リガンド結合構造、開状態を比較した。その結果、リガンド結合ポケットは動的な可塑性を持ち、化学物質の認識が細胞外結合ドメインの閉鎖と結びついていることがわかった。この変化は連結領域を通じて膜貫通部に伝わり、ポアを拡張する。複数の証拠が、リガンド結合とチャネルのゲーティングを結ぶ機械的共役の枠組みを支持している。この研究は昆虫の感覚受容体に関する基礎的な構造理解をもたらす。一方、抄録で示された媒介生物の防除への応用は今後の展望であり、実際の防除効果が検証されたわけではない。
注目ポイント · 複数の状態の構造から、昆虫の感覚受容体が化学物質の認識をチャネルのゲーティングへとつなぐ仕組みを説明。
DOI:10.1038/s41586-026-11239-3
38 · 成体の大脳皮質と海馬における内在性 NMDA 受容体のサブユニット構成と立体構造
Cell · 公開日/巻号発行日:2025-03-06
著者:Ming Zhang, Juan Feng, Chun Xie, Nan Song, Chaozhi Jin, Jian Wang, Qun Zhao, Lihua Zhang, Boshuang Wang, Yidi Sun, Fei Guo, Yang Li, Shujia Zhu
天然の NMDA 受容体のサブユニット構成はシナプスシグナルの特性を左右するが、組換え発現系が成体脳での実際の分布を十分に再現しているとは限らない。本研究では、立体構造やサブユニットに依存して認識する抗体を用い、成体ラットの大脳皮質と海馬から内在性受容体を単離し、主要な 3 種の会合体のクライオ電子顕微鏡構造を解析した。3 種の粒子の比率は約 9∶7∶4 で、多くの GluN2A と GluN2B サブユニットが、3 種類のサブユニットからなるヘテロ四量体に共存することが示唆された。この受容体は細胞外領域から膜貫通領域にかけて非対称な構造を持ち、サブタイプ間でも構造の違いが見られた。これらの結果は、内在性受容体の組成と構造の複雑さを明らかにし、サブタイプごとの機能や標的選択性を理解するうえで、実際の組織により即した根拠を提供する。ただし、粒子の比率は精製条件と識別条件を踏まえて解釈する必要がある。
注目ポイント · 成体脳の内在性 NMDA 受容体は多様なサブユニット構成をとり、単一サブタイプの組換え受容体だけでは捉えきれない構造の複雑さを示す。
DOI:10.1016/j.cell.2025.01.004
39 · カルシウムシグナルを積算する分子ツールが、嫌悪を駆動する線条体の細胞型を明らかに
Cell · 公開日/巻号発行日:2020
著者:Christina K Kim, Mateo I Sanchez, Paul Hoerbelt, Lief E Fenno, Robert C Malenka, Karl Deisseroth, Alice Y Ting
一過性の神経活動が起きた後、そのとき活動していた細胞をどう同定し、研究につなげるかは、生理活動と細胞型を結び付けるうえで重要な課題である。FLiCRE は、活動に伴うカルシウム濃度の上昇を持続的な転写標識に変換し、その後の単一細胞シーケンシングで内在性トランスクリプトームと活動履歴を同時に読み取れるようにする。著者らは、マウス側坐核への嫌悪性入力を刺激した際に活動する細胞を標識し、遠隔部位からの興奮性投射によって活性化される特定の細胞集団を同定した。さらに、出力を組み替えられる設計を利用してこの集団を選択的に活性化し、嫌悪行動を確認した。この結果は、一過性の活動記録から分子的な細胞同定、機能検証までをつなぐ方法を示している。ただし、読み出しは時間的に積算されるため、反映されるのは特定の時間枠内の活動であり、個々の発火の時系列ではない。
注目ポイント · FLiCRE は、一過性のカルシウム活動を転写の記録として残し、細胞型の同定や行動機能の解析につなげる。
DOI:10.1016/j.cell.2020.11.015
40 · 活動したニューロンのイメージングと操作に向けた、光とカルシウムで制御される転写因子
Nature biotechnology · 公開日/巻号日付:2017
著者:Wenjing Wang, Craig P Wildes, Tanyaporn Pattarabanjird, Mateo I Sanchez, Gordon F Glober, Gillian A Matthews, Kay M Tye, Alice Y Ting
FLARE は、研究者が指定した時間枠内の神経活動を、後から継続して読み取れる遺伝子発現へと変換するために開発された。このシステムは細胞質のカルシウム濃度上昇と外部からの光信号を同時に検知し、両者が重なったときだけ転写を開始することで、そのとき活動していた細胞を標識する。培養ニューロンでは、明暗条件と高・低カルシウム条件を良好に識別できることを示し、その後に発現するツールを使って標識細胞の機能操作も実施した。成体マウスの皮質でも、光と運動活動に応じた転写が確認された。この設計の価値は、時間の選択性と活動依存性を組み合わせ、一過性の事象をその後の分子・機能研究につなげられる点にある。記録されるのは時間枠内の活動履歴であり、時間分解能の高い電気生理計測やカルシウムイメージングを直接置き換えるものではない。
注目ポイント · 光とカルシウムによる二重制御で、特定の時間枠内に活動したニューロンに、後から継続して読み取れる転写標識を付ける。
DOI:10.1038/nbt.3909
プロテアーゼと膜タンパク質の de novo 設計(5報)
41 · メタロプロテアーゼの計算設計
Nature · 公開日/巻号日付:2026-10-14
著者:Anqi Chen, Kejia Wu, Hojae Choi, Preetham Venkatesh, Samuel J. Pellock, Nikita Hanikel, Hojeong Shin, Declan Evans, Kieran Didi, Lars L. Schaaf, Cristina Díaz-Perlas, Brian Coventry, Donghyo Kim, Seth M. Woodbury, Pengfei Ji, Shingo Honda, Asim K. Bera, Hannah Nguyen, Alex Kang, Yanqing Wang, Xinting Li, Stacey Gerben, Lemuel Chang, Xiao Yan, Benjamí Oller-Salvia, Anthony A. Hyman, Donald Hilvert, David Baker
ペプチド結合を切断する酵素の de novo 設計は、計算設計が高いエネルギー障壁を持つ反応に対応できるかを試す重要な課題である。本研究では RFdiffusion を用いて、亜鉛を含む触媒中心と、それに隣接する基質結合ポケットを備えたメタロプロテアーゼを構築した。試験した135種類の設計のうち、約36%が対応するペプチド基質を狙った位置で切断した。著者らによると、最も優れた設計はペプチド結合の加水分解を大幅に加速し、さらなる最適化によって活性も向上した。また、疾患関連タンパク質の選択的切断や、プロテアーゼによる細胞シグナル制御の概念実証も示した。この結果は、計算設計によって触媒能と基質認識を組み合わせられることを示している。ただし、治療やバイオテクノロジーへの応用はまだ将来の可能性であり、これらの実験結果を、そのまま確立済みの臨床ツールとみなすことはできない。
注目ポイント · de novo 設計したメタロプロテアーゼで、比較的高い触媒活性と、設計によって調整できる基質認識を両立した。
DOI:10.1038/s41586-026-11167-2
42 · システインプロテアーゼの de novo 設計
Nature · 公開日/巻号日付:2026-10-14
著者:Hojae Choi, Magnus S. Bauer, Brian Coventry, Preetham Venkatesh, Anqi Chen, Donghyo Kim, Asim K. Bera, Alex Kang, Hannah Nguyen, Shayan Sadre, Justin Decarreau, Emily Joyce, Bhanumathi Shankaran, Tuscan Rock Thompson, Gabriel Greenstein, Kieran Didi, Lars L. Schaaf, Jacob Merle Gershon, Alexander F. Shida, Gyu Rie Lee, Donald Hilvert, Samuel J. Pellock, David Baker
安定なペプチド結合を加水分解するには、触媒中心の配置と基質の位置決めを高い精度で整える必要がある。本研究では、システインを触媒求核基とするプロテアーゼを de novo 設計し、試験した69種類のうち13種類で成功した。報告された最大の反応加速は、バックグラウンドの加水分解の数千万倍に達した。これらのタンパク質の全体的なフォールドは天然プロテアーゼと大きく異なる一方、6つの結晶構造は設計モデルとよく一致し、新しい骨格でも構造を正確に設計できることを裏付けた。実験と計算解析からは、高活性の天然酵素との差には、活性部位の事前組織化や基質の位置決めがなお不十分なことが関わると示唆された。著者らは哺乳類細胞でも標的の切断を示し、設計したタンパク質が試験管内だけでなく細胞環境でも働くことを確認した。ただし、活性と選択性は個々の実験系で評価する必要がある。
注目ポイント · 天然にはないフォールドを持つ設計プロテアーゼが、配列依存的なペプチド結合の加水分解を実現し、構造解析でも検証された。
DOI:10.1038/s41586-026-11143-w
43 · de novo 設計した電位依存性陰イオンチャネルがニューロンの発火を抑制
Cell · 公開日/巻号日付:2025/12/24
著者:Chen Zhou, Huican Li, Jiaxing Wang, Cheng Qian, Hui Xiong, Zhilin Chu, Qiming Shao, Xuan Li, Shijin Sun, Ke Sun, Aiqin Zhu, Jiawei Wang, Xueqin Jin, Fan Yang, Tamer M. Gamal El-Din, Bo Li, Jing Huang, Kun Wu, Peilong Lu
de novo 設計した膜タンパク質を電位に応答させるには、イオンが流れる経路を作るだけでなく、環境の変化を構造の動きにつなげる必要がある。本研究では電位依存性陰イオンチャネル dVGAC を設計し、パッチクランプ法で電位依存的な陰イオン電流を確認した。クライオ電子顕微鏡構造は設計モデルに近く、シミュレーションと合わせて、孔内の電荷を帯びた狭窄部が電位変化の感知に関わり、同時にイオン選択性にも影響することを支持した。著者らは、チャネルの性質をさらに調整できることも報告し、ニューロンの実験系で発火を抑制する作用を示した。この研究は、計算設計の対象を静的な膜貫通構造から刺激に応答する動的な機能へと広げ、膜タンパク質の構造変化と電気活動の関係を調べる人工的な実験系を提供する。ただし、適用範囲は細胞や実験条件ごとに評価する必要がある。
注目ポイント · de novo 設計した陰イオンチャネルが電位に応答し、実験系でニューロンの発火を抑制した。
DOI:10.1016/j.cell.2025.09.023
44 · 二重トポロジーを持つ膜輸送体の de novo 設計
プレプリント · 公開日/巻号日付:2025/12/31
著者:Xi Chen, Xiaofeng Zhou, Jiawei Zhou, Tengyu Xie, Yaning Li, Yuxuan Yan, Jing Huang, Zibo Chen, Dan Ma, Peilong Lu
このプレプリントは、静的な孔を形成するだけでなく、小分子を選択的に輸送できる膜タンパク質を de novo 構築する試みである。著者らは、膜内で互いに逆向きのトポロジーを取れるタンパク質ユニットを設計し、逆平行二量体を形成させた。構造変化によって、基質結合部位と考えられる領域が膜の両側に交互に露出する仕組みである。細胞と人工リポソームを用いた実験では、これらのタンパク質が濃度勾配に沿って特定の小分子色素の流入を促進し、天然のユニポーターに似た挙動を示した。クライオ電子顕微鏡解析と機能解析は、設計した構造と提案された輸送モデルを支持した。この結果は、動的な膜輸送機能を人工的に構築できる可能性を示す。ただし、輸送できる基質の範囲や機構の一般性にはさらなる検証が必要であり、薬物送達などへの応用は、本論文では主に将来の構想として位置付けられている。
注目ポイント · 二重トポロジー設計により、交互アクセスという構造変化の考え方を、測定可能な小分子の膜輸送として実現した。
DOI:10.65215/LTSpreprints.2025.12.30.000074
45 · 蛍光を活性化する膜貫通タンパク質の de novo 設計
Nature · 公開日/巻号日付:2025-04
著者:Jingyi Zhu, Mingfu Liang, Ke Sun, Yu Wei, Ruiying Guo, Lijing Zhang, Junhui Shi, Dan Ma, Qi Hu, Gaoxingyu Huang, Peilong Lu
膜貫通タンパク質は、脂質環境に適応しながら精密な小分子結合ポケットも形成する必要があり、可溶性タンパク質の設計より多くの制約がある。本研究では深層学習とエネルギーに基づく手法を組み合わせ、蛍光原に結合できる膜貫通タンパク質を de novo 設計した。実験では、設計したタンパク質がリガンドの蛍光を特異的に活性化し、中程度のナノモル濃度域の親和性を示した。また、生きた細菌や真核細胞の膜画分でも活性を維持した。著者らが報告した明るさと量子収率は、比較対象の高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)を上回った。結晶構造とクライオ電子顕微鏡構造は設計モデルとよく一致し、想定した結合様式が裏付けられた。この研究は、膜内のタンパク質–小分子相互作用を比較的高い精度で設計できることを示し、膜に局在するイメージングツールやリガンド検出ツールの開発に新たな道を開く。
注目ポイント · 構造解析で検証された設計膜貫通タンパク質が、蛍光原に特異的に結合し、その蛍光を活性化する。
DOI:10.1038/s41586-025-08598-8
葉緑体へのタンパク質輸送(4報)
46 · 緑藻における葉緑体タンパク質輸送モーター Ycf2-FtsHi の保存性と特殊化
Cell · 公開日/巻号日付:2024-10-03
著者:Ke Liang, Xiechao Zhan, Yuxin Li, Yi Yang, Yanqiu Xie, Zeyu Jin, Xiaoyan Xu, Wenwen Zhang, Yang Lu, Sheng Zhang, Yilong Zou, Shan Feng, Jianping Wu, Zhen Yan
葉緑体は、核にコードされたタンパク質を絶えず取り込む必要がある。緑藻の輸送モーターが陸上植物と同じかどうかは、その進化を理解するうえで重要な問いである。本研究では、クラミドモナスから天然の Ycf2-FtsHi 複合体を単離してクライオ電子顕微鏡構造を解析し、緑藻に特有の複数の構成要素を含む、最大19個のサブユニットを同定した。ヘテロ六量体の AAA+ ATPase モーターは膜に対して傾いて配置されており、内膜の膜透過装置から前駆体タンパク質を受け取りやすくしている可能性がある。試験管内の実験でも、前駆体タンパク質によって ATPase 活性が高まることが示された。著者らは TOC–TIC 超複合体の構造も踏まえ、チャネルとモーターの物理的・機能的なつながりを論じている。これらの結果は、共通の作動原理と系統ごとの特殊化の両方を示し、さまざまな光合成生物の葉緑体タンパク質輸送を比較する基盤となる。
注目ポイント · 緑藻の輸送モーターは、中核となる ATPase の構造を保ちながら、複数の特有な補助因子を備えている。
DOI:10.1016/j.cell.2024.08.002
47 · 葉緑体タンパク質輸送装置の構造と機能
Annual Review of Plant Biology · 公開日/巻号日付:2026-05-20
著者:Zeyu Jin, Zhen Yan
葉緑体のタンパク質の多くは核にコードされており、外膜の TOC、内膜の TIC、ATP 駆動モーターの協調によって取り込まれる。このシステムの構成と作動機構には長年議論があったが、近年の高分解能構造が、その全体像を見直すための重要な証拠を提供している。この総説は構造・機能・進化の研究を統合し、チャネルとモーターの役割分担や組み立ての関係、光合成生物間で保存されている点と異なる点を論じる。特に、構造生物学が従来のモデルをどう修正し、個別に蓄積されてきた機能的知見を、より包括的な分子レベルの枠組みに位置付けるかに焦点を当てている。緑藻や陸上植物の構造を報告した原著論文と併せて読むことで、構成要素間の関係のうち、直接的な裏付けが得られたものと、なお研究が必要な動的な輸送過程とを区別しやすくなる。
注目ポイント · 近年の構造解析によって、TOC、TIC、輸送モーターの協調に対する理解が塗り替えられつつある。
DOI:10.1146/annurev-arplant-062325-090826
48 · 陸上植物の葉緑体タンパク質輸送を構造から読み解く
Cell · 公開日/巻号日付:2024-10-03
著者:Ke Liang, Zeyu Jin, Xiechao Zhan, Yuxin Li, Qikui Xu, Yanqiu Xie, Yi Yang, Shaojie Wang, Jianping Wu, Zhen Yan
陸上植物で前駆体タンパク質が葉緑体内膜のチャネルから ATPase モーターへどう受け渡されるかを知るには、両者が組み合わさった全体構造を理解する必要がある。本研究では、シロイヌナズナの Ycf2-FtsHi 複合体と TIC 複合体に加え、エンドウで両者が形成する、より大きな複合体の構造を解析した。Ycf2-FtsHi の構造からはヘテロ六量体の AAA+ ATPase モジュールが明らかになり、これまで十分に調べられていなかった4種類の補助因子も同定された。これらは複合体の組み立てとモーターの膜表面への配置に関わる。モーターは傾いた角度で TIC に近接し、チャネルの出口と駆動モジュールが空間的につながるように配置されていた。著者らは、この配置が前駆体の効率的な受け渡しに役立つと提案している。この研究は、個々の複合体の構造から協調して働く装置へと理解を広げ、陸上植物の葉緑体タンパク質輸送を説明する構造基盤を提供する。ただし、動的な過程の理解には機能的な証拠も併せて検討する必要がある。
注目ポイント · 傾いて配置された Ycf2-FtsHi モーターが TIC と密接につながり、前駆体タンパク質の受け渡しを構造面から説明する。
DOI:10.1016/j.cell.2024.08.003
49 · 葉緑体包膜の2枚の膜を貫く TOC-TIC 超複合体の構造
Cell · 公開日/巻号日付:2022-12-08
著者:Zeyu Jin, Li Wan, Yuqi Zhang, Xuecheng Li, Yong Cao, Haobin Liu, Shengyao Fan, Du Cao, Zhengmao Wang, Xiaobo Li, Junmin Pan, Meng-Qiu Dong, Jianping Wu, Zhen Yan
核にコードされた前駆体タンパク質が葉緑体の二重の包膜を通って内部に入るには、膜透過装置の連携が欠かせない。本研究はクラミドモナスの TOC–TIC 超複合体のクライオ電子顕微鏡構造を解析し、14 の構成因子を同定するとともに、二枚の膜をまたぐ全体の連結様式を示した。外膜チャネルは異なる構成因子が共同でつくる混成 β バレルであり、内膜では特定の膜貫通ヘリックスが輸送経路の候補を形成していた。これは従来のモデルの一部とは異なる。膜間腔の硬い足場構造が両端をつなぎ、その親水性の裂け目がチャネル間を結ぶ経路となる可能性がある。この構造は、構成因子、組み立て、輸送経路を一つの枠組みで捉え、今後、さまざまな植物や藻類の系を比較する際の基準にもなる。ただし、前駆体が実際にどう移動するかについては、動態解析や機能実験と併せた検証が必要だ。
注目ポイント · TOC–TIC 超複合体の構造から、葉緑体の二重の包膜を連続的につなぐ仕組みが見えてきた。
DOI:10.1016/j.cell.2022.10.030
CTP 合成酵素の触媒作用とアロステリック制御(2 報)
50 · 反応中のクライオ電子顕微鏡解析で明らかになった CTP 合成酵素の触媒過程における連続的な構造変化
Proceedings of the National Academy of Sciences · 公開日/巻号発行日:2026-10-20
著者:Chen-Jun Guo, Yu-Fen Wu, Shu-Ying Guo, You Fu, Wei Wang, Ji-Long Liu
酵素は実際の触媒反応中に連続的に構造を変えるため、あらかじめ一つの中間状態に固定すると、こうした構造の分布を捉え損ねる可能性がある。本研究ではショウジョウバエの CTP 合成酵素を対象に、天然の基質とアロステリックエフェクターを含み、反応が進行している混合液から試料を採取した。さらに三次元変動解析を組み合わせ、触媒反応中の連続的な立体構造の分布を再構成した。著者らは構造変化の一部を 4-ホスホリル UTP の形成と関連づけ、反応終点では ATP と CTP が同時に結合していることも観察した。加水分解されない ATP 類似体との比較から、構造集団をより閉じた状態へ偏らせる鍵は、ATP の結合だけではなく UTP のリン酸化にあると示された。この手法は化学反応の進行と立体構造の分布を結びつけ、単一の状態を捕捉する方法とは異なる視点から、酵素の動的な反応過程を観察できるようにする。
注目ポイント · 反応中の試料採取により、CTPS の連続的な立体構造の分布と実際の化学反応段階が結びつけられた。
DOI:10.1073/pnas.2620271123
51 · GTP はアロステリックエフェクターの結合・解離サイクルを通じて CTP 合成酵素を制御する
Proceedings of the National Academy of Sciences · 公開日/巻号発行日:2026-10-20
著者:Chen-Jun Guo, Yu-Fen Wu, Shu-Ying Guo, Jia-Li Lu, Liang Xu, You Fu, Xian Zhou, Jiale Zhong, Zherong Zhang, Ji-Long Liu
GTP は反応で消費されることなく CTP 合成酵素の触媒作用を促進するが、その制御が反応サイクルとどう連動するかは不明だった。本研究は、反応中の試料のクライオ電子顕微鏡解析に生化学解析と変異解析を組み合わせ、ショウジョウバエの CTPS の 34 種類の状態を最高 2.0 Å の分解能で捉えた。結果は、触媒サイクルごとに GTP が一度結合して解離し、それが CTP 一分子の生成と連動するモデルを支持する。GTP の最初の取り込みと安定した結合は、それぞれ二つの触媒ドメインの反応の進み具合に制約され、ドメイン間の働きが同期する。著者らはこれを「エフェクターサイクル」と呼び、アロステリック分子は離れた部位に長く結合するだけでなく、その出入り自体も触媒制御の一部を担うと強調している。
注目ポイント · GTP の周期的な結合と解離が、CTPS の複数のドメインにまたがる触媒反応を協調させる。
DOI:10.1073/pnas.2620272123
細胞膜表面・細胞外タンパク質の分解(2 報)
52 · 共有結合を形成するよう設計されたナノボディキメラによる標的膜タンパク質の分解
Journal of the American Chemical Society · 公開日/巻号発行日:2021-10-13
著者:Heng Zhang, Yu Han, Yuanfan Yang, Feng Lin, Kexin Li, Linghao Kong, Hongxiang Liu, Yongjun Dang, Jian Lin, Peng R. Chen
従来の PROTAC は主に細胞内の分解機構を利用するが、細胞膜表面のタンパク質を狙って除去するには別の経路が必要になる。本研究は、共有結合型ナノボディを用いる GlueTAC という戦略を提案した。まず質量分析を用いたスクリーニングによって、表面抗原と近接依存的に架橋を形成する認識モジュールを作製し、細胞内への取り込みとリソソームへの選別を助ける機能部位を組み合わせた。著者らは PD-L1 を例に、標的タンパク質の内在化と分解を観察し、高親和性の認識を除去シグナルへとつなげられる可能性を示した。この研究は膜タンパク質分解の技術的な選択肢を広げるとともに、非共有結合と共有結合の役割を比較する実験系も提供する。ただし、要旨で述べられた高い効率と特異性は、試験した対象で得られたものであり、ほかの膜タンパク質にも適用できるかは個別の検証が必要だ。
注目ポイント · GlueTAC はナノボディによる認識をリソソーム経路につなぎ、細胞膜表面の標的タンパク質を選択的に除去する。
DOI:10.1021/jacs.1c08521
53 · 膜貫通タンパク質と細胞外タンパク質を対象とする標的タンパク質分解
Science · 公開日/巻号発行日:2025-11-27
著者:Rongfeng Zhu, Heng Zhang, Peng R. Chen
標的タンパク質分解は、従来の細胞内標的から、細胞間コミュニケーションや疾患の進行でも重要な役割を担う膜貫通タンパク質や細胞外タンパク質へと対象を広げている。この総説は、新たな分野の技術基盤、作用の特徴、応用と限界を体系的に論じている。特に、細胞が持つさまざまな除去経路を利用して、従来の PROTAC では扱いにくかったタンパク質をどう分解対象に加えるかに注目する。あらゆる戦略を同じ技術として捉えるのではなく、概念上の新しさを整理し、認識、輸送、分解の各段階でそれぞれの技術が何を必要とするのかを区別できるようにしている。著者らは基礎研究と治療の両面での意義も論じている。これらの手法を信頼できる介入手段にできるかどうかは、組織分布、標的タンパク質への到達性、分解経路といった具体的な条件にも左右される。
注目ポイント · 膜貫通タンパク質と細胞外タンパク質の分解は TPD の標的範囲を広げる一方、輸送や選択性に新たな制約をもたらす。
DOI:10.1126/science.adx5094
その他の文献(1 報)
54 · リガンド最適化を理解するためのランダム改変による比較基準の構築
Nature · 公開日/巻号発行日:2026-09-16
著者:Xinyu Xu, Olivier Mailhot, Galen J. Correy, Xi-Ping Huang, Joao M. Braz, Da Shi, Karthik Srinivasan, Kara Zielinski, Yuliia Holota, Yuliia Kuziv, Christos Iliopoulos-Tsoutsouvas, Nathan D. Levinzon, Yagmur U. Doruk, Moira M. Rachman, Morgan E. Diolaiti, Maisie G. V. Stevens, Fangyu Liu, Katie L. Holland, Harald Hübner, Jing Wang, Yujin Wu, Alan Ashworth, Alexandros Makriyannis, Yuqi Zhang, Yurii S. Moroz, Peter Gmeiner, Robert Abel, Aashish Manglik, Allan I. Basbaum, Bryan L. Roth, James S. Fraser, Brian K. Shoichet
医薬品のリード最適化では多くの類縁体を合成することが多い。しかし、ランダムな改変を比較基準にしたデータが乏しく、意図した設計が効率をどれほど高めたのかを判断しにくい。本研究は六つの標的に対する 18 のリード分子に系統的な一原子単位の改変を加え、計 257 化合物を合成した。結果は予想外で、小さなランダム改変の 11.3% で活性が少なくとも十倍に向上した一方、in vitro で評価した薬物動態特性は概して悪化した。一部の化合物は、活性の向上によって曝露量の減少や半減期の短縮を補い、in vivo でもより強い作用を示した。ただし全体として、最適化では異なる特性の間にトレードオフが見られた。この研究はリガンド最適化を評価するためのランダム改変の初期的な比較データを提供する。また、in vitro 活性の改善だけで設計の成功を判断すると、分子を生体内での応用へ進める際の大きな難しさを見落としかねないことも示している。
注目ポイント · ランダムな小さな改変でも活性は大きく高まるが、薬物動態特性の悪化によって、その利点が相殺される可能性がある。
DOI:10.1038/s41586-026-11013-5