今週は、クライオ電子顕微鏡用グラフェングリッドとαシヌクレイン線維の脱凝集に関する論文を計3本紹介します。クライオ電子顕微鏡用グラフェングリッド(2本)01 · 原子分解能に迫るクライオ電子顕微鏡解析に向けた、高収率の単層グラフェングリッドProceedings of the National Academy of Sciences · 公開日/巻号発行日:2020-01-14著者:Yimo Han, Xiao Fan, Haozhe Wang, Fang Zhao, Christopher G. Tully, Jing Kong, Nan Yao, Nieng Yanクライオ電子顕微鏡用グリッドの支持表面は、氷層の質やタンパク質の吸着、再構成に使える粒子数に影響します。本論文では、単層グラフェンの被覆率が最大99%に達するグリッドの作製法を紹介しています。グリッドの四角い開口部の70%以上で良好なデータを収集でき、画像の質とタンパク質の密度も向上します。著者らはこのグリッドを使い、分子量52 kDaのストレプトアビジンの構造を、わずか約11,000粒子から2.6 Åの分解能で決定しました。検証した可溶性タンパク質、膜タンパク質、リポタンパク質の試料では、粒子密度が少なくとも5倍に増加しました。これにより、得られる量が少ない試料や濃縮が難しい試料でも構造研究への道が開けます。多くの構造生物学研究室で入手できる簡単な器具を用い、さまざまなナノ材料にも対応できるため、特定のタンパク質に合わせた支持表面を設計する基盤となる方法です。注目ポイント · 被覆率の高い単層グラフェングリッドで粒子密度が向上し、少ない粒子数でも低分子量タンパク質の構造解析が可能に。DOI:10.1073/pnas.191911411702 · 高分解能構造決定に向けたクライオ電子顕微鏡用グリッドへの単層グラフェンの応用Journal of Visualized Experiments (JoVE) · 公開日/巻号発行日:2023-11-10著者:Andrew V. Grassetti, Mira B. May, Joseph H. Davis試料調製は、クライオ電子顕微鏡による構造解析で依然として大きなボトルネックです。グリッドの穴を覆う氷層内での粒子の分布や、粒子と気液界面との相互作用が、データの質を制限することがあります。この方法論文では、撮像領域の粒子密度を高め、粒子と気液界面との接触を減らすために、グリッド上に連続した単層グラフェンの支持膜を導入する手順を紹介しています。さらに、グリッドの相対的な親水性を迅速に評価する方法と、グラフェン特有の電子回折パターンを使って支持膜の存在を確認する方法も示し、表面処理と品質確認を一連の作業として実施できるようにしています。著者らは、比較的低濃度の精製Cas9複合体を例に、短時間で分解能2.7 Åの密度マップを取得し、この支持膜が実際の構造決定に役立つことを示しました。グリッドの処理、表面の評価、構造による検証を、各段階で確認できる一連の手順にまとめた点が、この論文の貢献です。注目ポイント · グラフェン支持膜の作製と品質評価を組み合わせ、低濃度のCas9複合体でも高分解能での再構成を実現。DOI:10.3791/66023その他の論文(1本)03 · シヌクレイノパチーの治療に向けたαシヌクレイン線維の化学的脱凝集Proceedings of the National Academy of Sciences · 公開日/巻号発行日:2023-03-14著者:Shenjie Wu, Nancy C. Hernandez Villegas, Randy Schekmanこの論評は、独立した新たな実験を報告するものではなく、Murrayらの研究をもとに、低分子化合物でαシヌクレイン線維を脱凝集させるシヌクレイノパチー治療の可能性を論じています。著者らによると、対象の化合物は試験管内で、あらかじめ形成させた線維や患者の脳組織由来の線維を脱凝集させ、その後の凝集を誘発する能力も低下させます。線虫モデルでも凝集体の斑点が減少しました。一方、不完全な脱凝集で生じた小さな断片はシード活性を高めるおそれがあるため、線維が崩壊するだけでは治療上の有用性を示したことにはならないと強調しています。疾患ごとに由来する線維の構造が異なることに加え、薬剤の選択性、毒性、脳内曝露量も課題です。マウス実験では化合物がある程度脳内に移行することが示唆されたものの、その時点で測定された曝露量は、生体内で脱凝集作用を発揮するには不十分でした。この論評では、これらの結果を初期段階の研究成果と位置づけ、今後も最適化と検証が必要だとしています。原文の本文に基づいてまとめました。注目ポイント · 治療への応用には、線維の脱凝集と同時にシード活性も低下させ、脳内曝露量と安全性の課題を解決する必要がある。DOI:10.1073/pnas.2300965120
今週は、クライオ電子顕微鏡用グラフェングリッドとαシヌクレイン線維の脱凝集に関する論文を計3本紹介します。
クライオ電子顕微鏡用グラフェングリッド(2本)
01 · 原子分解能に迫るクライオ電子顕微鏡解析に向けた、高収率の単層グラフェングリッド
Proceedings of the National Academy of Sciences · 公開日/巻号発行日:2020-01-14
著者:Yimo Han, Xiao Fan, Haozhe Wang, Fang Zhao, Christopher G. Tully, Jing Kong, Nan Yao, Nieng Yan
クライオ電子顕微鏡用グリッドの支持表面は、氷層の質やタンパク質の吸着、再構成に使える粒子数に影響します。本論文では、単層グラフェンの被覆率が最大99%に達するグリッドの作製法を紹介しています。グリッドの四角い開口部の70%以上で良好なデータを収集でき、画像の質とタンパク質の密度も向上します。著者らはこのグリッドを使い、分子量52 kDaのストレプトアビジンの構造を、わずか約11,000粒子から2.6 Åの分解能で決定しました。検証した可溶性タンパク質、膜タンパク質、リポタンパク質の試料では、粒子密度が少なくとも5倍に増加しました。これにより、得られる量が少ない試料や濃縮が難しい試料でも構造研究への道が開けます。多くの構造生物学研究室で入手できる簡単な器具を用い、さまざまなナノ材料にも対応できるため、特定のタンパク質に合わせた支持表面を設計する基盤となる方法です。
注目ポイント · 被覆率の高い単層グラフェングリッドで粒子密度が向上し、少ない粒子数でも低分子量タンパク質の構造解析が可能に。
DOI:10.1073/pnas.1919114117
02 · 高分解能構造決定に向けたクライオ電子顕微鏡用グリッドへの単層グラフェンの応用
Journal of Visualized Experiments (JoVE) · 公開日/巻号発行日:2023-11-10
著者:Andrew V. Grassetti, Mira B. May, Joseph H. Davis
試料調製は、クライオ電子顕微鏡による構造解析で依然として大きなボトルネックです。グリッドの穴を覆う氷層内での粒子の分布や、粒子と気液界面との相互作用が、データの質を制限することがあります。この方法論文では、撮像領域の粒子密度を高め、粒子と気液界面との接触を減らすために、グリッド上に連続した単層グラフェンの支持膜を導入する手順を紹介しています。さらに、グリッドの相対的な親水性を迅速に評価する方法と、グラフェン特有の電子回折パターンを使って支持膜の存在を確認する方法も示し、表面処理と品質確認を一連の作業として実施できるようにしています。著者らは、比較的低濃度の精製Cas9複合体を例に、短時間で分解能2.7 Åの密度マップを取得し、この支持膜が実際の構造決定に役立つことを示しました。グリッドの処理、表面の評価、構造による検証を、各段階で確認できる一連の手順にまとめた点が、この論文の貢献です。
注目ポイント · グラフェン支持膜の作製と品質評価を組み合わせ、低濃度のCas9複合体でも高分解能での再構成を実現。
DOI:10.3791/66023
その他の論文(1本)
03 · シヌクレイノパチーの治療に向けたαシヌクレイン線維の化学的脱凝集
Proceedings of the National Academy of Sciences · 公開日/巻号発行日:2023-03-14
著者:Shenjie Wu, Nancy C. Hernandez Villegas, Randy Schekman
この論評は、独立した新たな実験を報告するものではなく、Murrayらの研究をもとに、低分子化合物でαシヌクレイン線維を脱凝集させるシヌクレイノパチー治療の可能性を論じています。著者らによると、対象の化合物は試験管内で、あらかじめ形成させた線維や患者の脳組織由来の線維を脱凝集させ、その後の凝集を誘発する能力も低下させます。線虫モデルでも凝集体の斑点が減少しました。一方、不完全な脱凝集で生じた小さな断片はシード活性を高めるおそれがあるため、線維が崩壊するだけでは治療上の有用性を示したことにはならないと強調しています。疾患ごとに由来する線維の構造が異なることに加え、薬剤の選択性、毒性、脳内曝露量も課題です。マウス実験では化合物がある程度脳内に移行することが示唆されたものの、その時点で測定された曝露量は、生体内で脱凝集作用を発揮するには不十分でした。この論評では、これらの結果を初期段階の研究成果と位置づけ、今後も最適化と検証が必要だとしています。
原文の本文に基づいてまとめました。
注目ポイント · 治療への応用には、線維の脱凝集と同時にシード活性も低下させ、脳内曝露量と安全性の課題を解決する必要がある。
DOI:10.1073/pnas.2300965120